みなさん、こんにちは。物理基礎のコーナーです。今回は【等加速度運動】についてです。
等加速度運動は2種類あります。「自由落下」や「斜面上の滑落」など、速度と加速度の向きが同じ「等加速度直線運動」がそのうちの1つ。
もう1つは速度と加速度の向きが異なる場合で、「放物運動」と呼ばれます。その名の通り、物を放り投げたときの物体の運動のことです。
今回は「放物運動」についての典型的な問題である、「ボールを投げるときの角度と距離」についての問題を解いていきます。三角比の $\sin$ と $\cos$、速度の正負などでミスも起きやすいので注意が必要です。
この問題は「速度の合成と分解」や「重力加速度」、「三角比」についての総まとめとなります。センター試験などでも頻出の問題ですし、この問題が解ければ「等加速度運動」についての理解は十分と言えるでしょう。重要な問題ですので、この機に是非マスターして頂きたいと思います。
物体の射出角と到達距離の関係についての問題
例題仰角 $\theta$ で地面と同じ高さからボールを打ち出し、ボールの運動を観測した。地面からボールが離れたときの時刻を $0$ とし、このときの速さを $v_0$ とすると、ボールが再び地面と同じ高さとなるまでに水平方向にボールが進む距離 $d$ を求めよ。また $d$ を最大にするための角度 $\theta$ はいくらか。ただし、ボールの大きさ、空気抵抗、地面の凹凸は考えないものとし、重力加速度を $g$ とする。
問題の状況を整理していきたいと思います。
空気抵抗が無い状態で地面からボールを打ち出した、ということは、月面にゴルフ場を作ってゴルフをしてみた、ということです。地球上ではボールに回転を掛けてボールの軌道を変えることができますが、空気が無い月面ではボールに回転をかけたとしてもボールに加わる力は重力のみ。きれいな放物運動となることでしょう。
この問題の解き方は古来より決まっています。以下の順序で問題を解いていきます。
1. 速度を水平方向と鉛直方向に分解し、ボールが地面と同じ高さに戻ってくるまでの時間 $t_0$ を求める。
2. 水平方向のボールの速度と $t_0$ を使って、水平方向に進む距離 $d$ を計算する。
3. $d$ を最大にするための $\theta$ を求める。
速度の分解と落下時間の計算
速度を水平方向と鉛直方向に分解するには三角比を用います。 下の図をご覧ください。
鉛直方向の速度は $v_0 \sin{\theta}$、 水平方向の速度は $v_0 \cos{\theta}$ となります。
落下するまでにかかる時間を考える場合には鉛直方向の速度のみを考えます。鉛直方向の運動は、物体を速度 $v_0 \sin{\theta}$ で真上に打ち出し、落下する運動と同じ状況になっています。
物体が元の高さに戻ってくるとき、物体の鉛直方向の速度は、物体を打ち出したときの鉛直方向の速度と向きが反対で大きさが同じになっています。
ボールが地面と同じ高さに戻ってくるときの鉛直方向の速度について式を立てると以下のようになります。
\begin{eqnarray} – v_0 \sin{\theta} &=& v_0 \sin{\theta} – gt_0 \\ t_0 &=& \frac{2v_0 \sin{\theta}}{g} \end{eqnarray}
以上からボールが地面と同じ高さに戻ってくるまでの時間は $t_0 = 2v_0 \sin{\theta} / g$ と求めることができました。
水平方向の移動距離
水平方向の初速は $v_0 \cos{\theta}$ であり、水平方向には加速度が生じないため、水平方向の速度は初速度から全く変わらず、時間によらず一定となっています。言い換えると、水平方向には等速運動をしていることになります。
ボールが水平方向に進む距離 $d$ は、水平方向のボールの速度 $v_0 \cos{\theta}$ とボールが元の高さに戻ってくるまでの時間 $t_0$ の積になっています。よって、
\begin{eqnarray} d &=& v_0 \cos{\theta} \times t_0 \\ &=& 2v_0 ^2 \sin{\theta} \cos{\theta} / g \\ &=& v_0 ^2 \sin{2\theta} / g \end{eqnarray}
となり、水平方向への移動距離を求めることができました。
2倍角の公式を用いて $2 \sin{\theta} \cos{\theta}$ を $\sin{2\theta}$ に書き換えたのは、見た目を綺麗にするためだけではなく、この後の計算を容易にするためです。
飛距離を最大にする角度
上記で求めた $d$ より、$d$ を最大にするためには $\sin{2\theta}$ を最大にすればよいことが分かります。
$0< \theta \leqq \pi /2$ なので、$0< 2\theta \leqq \pi$ であり、$2\theta = \pi /2$ のときに $\sin{2\theta}=1$ となり、最大の値をとります。
よって、飛距離 $d$ が最大となるのは、$\theta = \pi /4$ のときであることが分かりました。
真上に投げると水平方向に全く進まないですし、真横に投げるとすぐに地面に墜落するはずです。斜め45度で投げると最も遠くに飛ぶというのは、感覚的にも理解しやすいのではないかと思います。
今回のまとめ
放物運動において重要なことは鉛直方向と水平方向に速度を分解して考えることです。
物理では、複雑な問題を解くとき、今回のように問題を分解して、考えるべきことを限定するという方法がよく用いられます。
物理に限らず、人間関係や受験など、困難な問題の解決を目指すためにも「問題を分解して考えること」は有効です。
日常生活にも生かしてみてください。
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