みなさん、こんにちは。物理基礎のコーナーです。今回は【力のつり合い】について解説します。
大きさがあって変形しない物体を「剛体」と呼びますが、剛体の力のつり合いを考える場合には「モーメント」という新たな概念を使う必要があります。
今回はまず、「大きさのない物体」の2力、3力のつり合いについて復習した後、「モーメント」を使った剛体のつり合いを考えていきます。
大きさのない物体における力のつり合い〜2力のつり合いと3力のつり合いについて
まずは物体に大きさがない場合についてです。
大きさがあるのが物体でしょ?
その通りです。
我々が普段接する物体にはすべて大きさがありますし、大きさのない物体に対しては高校で習う物理法則は通用しません。
ここで言う「大きさがない」というのは「大きさを考慮する必要がない」もしくは「大きさが無視できるほど小さい」ということです。
物理を習い始めた頃には考えなくてもよかったのですが、後に述べる「モーメント」を考える場合には「物体の大きさ」が重要になります。
2力のつり合い
物体に2つの力が働いているときの力がつり合う条件は以下の通りです。
2力のつり合う条件
2つの力の向きが反対で大きさが同じ
机の上に置かれた箱はまさにこの状態にあります。箱には「地球からの重力」と「机からの垂直抗力」が働き、この2つの力が同じ大きさで反対方向になっているため、力はつり合い、物体は静止します。
3力のつり合い
物体に3つ以上の力が働いている場合、力がつり合う条件は以下の通りです。
3力 (以上)の力のつり合い
力の合力が $\overrightarrow{0}$
シンプルですね。物体に働く力をすべて足し合わせて、それがゼロになっていれば力はつり合います。
気を付けるべき点は力が「ベクトル」であるということです。なのでベクトルの足し算をして、力がつり合っているかどうかを考えます。
大きさがある物体についての力のつり合い〜力のモーメントの計算
続いて大きさがある場合の力のつり合いについてです。
物体に大きさがある場合、大きさがない場合には考えなくてもよかったことについて色々と考えなければいけません。新たに考えなければいけないことは「物体の変形」、「力の働く位置」、「物体の回転」です。順番に見ていきます。
物体の変形と剛体
物体に大きさがあるということは、物体に形があるということであり、物体が変形できるということです。しかし物体の変形を考えるのは非常に面倒です。
例えば、金属の棒に力を加えて変形させる場合を考えます。金属に力を加えて、力を大きくしていけば金属が変形してくるわけですが、金属が変形すると、それに応じて加える力の向きは変わってきます。
また、一度変形を始めた物体は変形を始める前よりも変形しやすくなります。つまり「物体の硬さ」が変わるわけです。その他諸々の要素を考慮することは大変面倒で、すべてを網羅することは高校物理では不可能です。
そこで、物体の変形について考えることはやめます。物体は、どんなことがあっても変形せず、その形を保つものとします。そうすれば、変形によって考えるべき諸々の問題を無視できます。
このような物理の問題の中だけに存在する、最硬の物体を「剛体」と呼びます。剛体とは「大きさを持つが変形しない物体」のことなのです。
力の働く位置と質点
次に「力の働く位置」についてです。これまで力が働く位置については深く考えませんでしたが、大きさがある場合は力が働く位置について考えなければいけません。
基本的に力は「触れている点」に生じます。椅子に座って背もたれに寄りかかっているならば、椅子からの力は背中と臀部にかかっているはずです。椅子からの力が手にかかったり、頭にかかったりはしないのです。
ここで面倒なのが「重力」です。重力は物体のすべての場所に均等にかかります。どこにかかっているかが1つのベクトルで表しにくいので問題を解くときに不便です。
そこで、物体の持つすべての質量がある1点に集中すると見なし、その点にすべての重力がかかっていると考えます。この点を質点と呼びます。
なぜこのように考えることができるのか、このように考えても問題はないのか、そうした疑問にお答えすることは、現時点ではできません。どうしても気になる方は、後1年くらい物理を学んで、体積積分ができるようになってから、再度この問題を考えてみてください。
こうした疑問につまづかなかった貴方は幸いです。今のところは、「そういうものなんだ」と無理やりにでも納得して、前に進んで頂けるとよろしいかと。
似たような言葉に「重心」という言葉があります。厳密には異なりますが、高校物理の範囲では「質点」と「重心」は同じものと考えても問題ありません。
質点の位置は、密度が均質な球や円盤状の物体の場合は、幾何学的な重心位置と一致します。棒状物質や三角形の平板についても中学数学で習った「重心位置の公式」を使えば求めることができます。
時折、「密度が均一でない物体」を扱うことがあります。それらの物体の質点を考えるためには「積分」や、この後説明する「モーメント」を考えなければなりません。
質点
・物体の全質量が1点に集中した点
・密度が均一な物体において、質点の位置は幾何学的な重心位置と一致する
回転とモーメント
大きさが存在する、ということは物体が回転可能であることを意味します。以下の図をご覧ください。
大きさのない物体において2力による力のつり合いを考える際には、2力の向きが反対で大きさが同じであれば物体は静止します。
左図の2力も向きが反対で同じ大きさになっています。しかし、左図のように物体に力を加えた場合、物体は回転し、最終的に右図のように真っすぐになった状態で静止すると考えられます。
つまり最初の状態では物体は静止せず、力がつり合っているとは言えません。
大きさが存在する物体において、力のつり合いを考えるためには、これまで考えてきた力のつり合いだけでなく、「力のモーメントのつり合い」を考えなければなりません。
「モーメント」とは「物体を回転させる性能を表す量」であり、このモーメントが大きいほど物体を回転させる能力が大きいことを意味します。
力のモーメントは以下のように定義されます。
力のモーメント $\overrightarrow{M}$の大きさ
$$ M = F r \sin{\theta} $$
($F$は力の大きさ、$r$は回転軸から作用点までの距離、$\theta$は $\overrightarrow{F}$ と回転軸を始点とした作用点までの位置ベクトル $\overrightarrow{r}$のなす角)
モーメントは (力) $\times$ (距離) $\times$ sin(力と位置ベクトルなす角) となっています。
力が大きくなると、それに比例してモーメントが大きくなることは理解しやすいと思います。
回転軸から力が作用する点までの距離を長くした場合にも、長くした距離に比例してモーメントは大きくなります。これを利用した代表的な装置が「てこ」です。作用点から支点までの距離を長くすることでモーメントを大きくし、小さな力でも大きな大きな物体を動かすことが可能となります。
最後に掛けられている $\sin{\theta}$ ですが、これは「どれだけ効率的に力を回転力に変換できるか」を表しています。
極端な場合を考えてみると分かりやすいかもしれません。$\theta = \pi /2$ のとき、$\sin{\theta}$ は最大となり、$1$ になります。このとき力のベクトルと、回転軸 → 作用点までの位置ベクトルは垂直になっており、最も効率的に力をモーメントに変換することができます。
一方で、$\theta = 0$ のとき、力のベクトルと、回転軸 → 作用点までの位置ベクトルは平行になっており、力を加えても物体を回転させることはできません。このとき、$\sin{\theta} = 0$ となり、モーメントの大きさも $0$になります。
物体を効率的に回転させるためには、力の大きさや回転軸からの距離だけでなく、力を加える向きも重要となります。
モーメントの何たるかを理解するのはかなり難しい作業だと思います。実際の問題でモーメントの使い方を学んでいきましょう。
モーメントを考慮した力のつりあいの問題
例題下図のように、長さ $L$の細長い板の両端にそれぞれ質量 $m$、$2m$の重りを固定し、この板をある一点で支えて板を静止させたい。板が回転しないようにするには、質量 $m$の重りから支点までの距離をいくらにすればよいか、$L$を使って表せ。ただし重りの大きさ、及び板の質量は考えないものとする。
重りの取り付けられた板を支えるために、支点の位置はどこにすべきか、という問題です。モーメントの基礎を確認するための問題としてよく出題されます。今回は質量 $m$の物体から支点までの距離を $x$として解いていきたいと思います。
回転せず、静止するということは、回転軸に対して時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントが同じ大きさである、ということです。それを表す方程式を立てます。
回転軸は支点の位置になります。板に働く力は「質量 $m$の重り」、「質量 $2m$の重り」、「支点」からの垂直抗力ですが、「支点から働く垂直抗力」は回転軸からの距離がゼロなので、モーメントには寄与しません。考えるべき力はそれぞれの重りから働く力のみです。
\begin{eqnarray} mg \times x \times \sin{(\pi /2)} = 2mg \times (L-x) \times \sin{(\pi /2)} \end{eqnarray}
式を立てることができました。ポイントは、質量 $m$の重りから支点までの距離が $x$であれば、質量 $2m$の重りから支点までの距離は $L-x$になるということです。
最後に上の式を解きます。$\sin{(\pi /2)}=1$ であり、$mg$ は両辺で割ると消えます。
\begin{eqnarray} x &=& 2 \times (L-x) \\ x &=& \frac{2}{3} \; L \end{eqnarray}
以上より、質量 $m$の重りから支点までの距離は $\frac{2}{3} L$ と求めることができました。
まとめ
この記事のまとめは以下のとおりです。しっかりと復習しましょう。
- 大きさのない物体の場合、物体に働く力の合力が $\overrightarrow{0}$ となるときに力がつり合う
- 剛体の力のつり合いにおいては、力の働く位置 (作用点)や回転を考えなければならい
- モーメント $M=Fr \sin{\theta}$
- 剛体が回転せず、静止しているとき、回転軸周りのモーメントは $\overrightarrow{0}$ になる
より「大学入試 漆原晃の 物理基礎・物理[力学・熱力学編]が面白いほどわかる本」を見てみましょう。
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