みなさん。こんにちは。数学IAのコーナーです。今回は【確率】についてです。
確率は高校数学の中でも、私たちが日常最も目にする機会が多い分野と言えるでしょう。確率の問題文を見てみると、じゃんけん、サイコロの目、コインの裏表やくじ引きなど、誰もが一度は体験したことがあるものが多いです。まあ袋から色のついた玉を取り出す場面はなかなか無いと思いますが。
なんにせよ、確率の問題をマスターすれば、日常でも使えるということですので、お得です。数学Aの代名詞でもある確率はセンター試験にも必ず出題され、応用問題も多岐に渡ります。
中学でも確率は習ってきたと思いますが、高校では、事象という概念を用いて、確率とは何なのか?を再定義し、確率の基本性質についてより深く考えていきます。高校で習う「確率」は中学までと比較にならないほど複雑ですが、事象という概念により、問題のイメージを格段に捉えやすくなります。
今回は事象という概念を意識しつつ、中学数学とは異なる「確率」の問題を一緒に解いていきましょう。
事象と確率ー確率とは?事象とは?
確率とは何なのか?
なんとなく分かっている人はたくさんいますし、日常生活でそれに支障はないのですが、数学Aの確率の問題を解くときには、しばしば「なんとなく」では困惑する場面に出くわします。確率を語るうえで「事象」は外せません。事象から確率へ、順を追って説明していきます。
数学における「事象」とは、「ある試行のもとで起こる事柄」のことです。サイコロを例にしますと、「サイコロを投げること」が「ある試行」であり、「偶数の目が出ること」が「事柄」になります。「サイコロを投げると偶数の目が出た」。数学ではこれを事象と呼びます。
事象には名前を付けることができます。例えば上で述べた「サイコロを投げると偶数の目が出た」という事象を事象Aと名付けることが可能です。これは「光の異常屈折により、像の位置がずれたり,倒立したり,実在しない像が現れたりする現象」を「蜃気楼」と名付けることと同じです。
また事象は集合と同じような性質を持っており、空集合、集合の共通部分、和集合、全体集合、補集合がそれぞれ、空事象、積事象、和事象、全事象、余事象に対応します。
事象の記号
空事象:$\phi$
和事象:$A \cup B$
積事象:$A \cap B$
全事象:$U$
余事象:$\overline{A}$
よく見ると(よく見なくても)、事象の記号は集合の記号と完全に同じです。意味するところも同じなので、イメージが難しい人は、集合の方を復習してみましょう。
そして以上を踏まえると、ついに確率の何たるか、を語ることができます。実は確率とは、「全事象に対し、ある事象が起きる割合」のことなのです。
サイコロの例で説明しますと、「サイコロを振って偶数の目が出る確率」は「サイコロを振って1、2、3、4、5、6の目のどれかが出る」という全事象に対し、「サイコロを振って2、4、6の目のどれかが出る」という事象が起きる割合ということになります。
さらに、高校数学では、「全事象$U$の根本事象のどれが起こることも同様に確からしい」という限定的な場合のみを考えます。
何を言っているのかを、サイコロを例にとって説明しますと、「全事象$U$の根本事象」とは「1の目が出る」から「6の目が出る」までの6つの事象を指しています。「どれが起こることも同様に確からしい」とは、「サイコロを振ったとき、どの目が出る可能性も、すべて同じ」ということであり、「サイコロが歪んでいて、目によって出る可能性が異なる」ような場合は考えないよ、ということです。
この限定的な場合に限り、事象Aの起きる確率は「事象Aの起こる場合の数」と「起こりうるすべての場合の数」の比で表されます。
確率
全事象$U$の根本事象のどれが起こることも同様に確からしいとき、ある事象$A$が起こる確率$P(A)$は
$$ P(A)=\frac{事象Aの起こる場合の数}{起こりうるすべての場合の数} $$
Pは英語で確率を表す <Probability>の頭文字からとったものです。
高校の数学Aで出てくる、ほぼすべての問題は、全事象の根本事象のどれが起こることも同様に確からしい場合のみを考えるので、確率を上の定義で覚えてしまって問題ありません。ただし、上の定義は限定的な場合のみ成り立つものだ、ということも覚えておかなければなりません。先ほどの例のような「歪んだサイコロ」や「歪んだコイン」において上の定義は成立しません。
他にも、明日の天気を考えるときに「明日の天気は、晴れ、雨、曇りの3つのうちのどれかだから、明日、晴れになる確率は$\frac{1}{3}$だ!」とは当然なりません。なぜならば根本事象が同様に確からしくないためなのです。
この記事を読んでいる皆様は中学から確率の問題を解いてきたと思いますが、日常で一番目にする「天気予報」の問題は一度も見たことがないですよね?それにはこういう理由があったのです。
長らくつらつらと書いて参りましたが、こうして確率のなんたるか、を数学的に書き表すことができました。めでたしめでたし。
でも、ちょっと待てよ、と賢い皆様からはご指摘を受けるかもしれません。上に書かれていること、はっきり言って「当たり前」ですよね。中学のときにも習ったことを小難しい言葉を使ってややこしく言い換えただけです。では、なぜそのようにややこしく言い換える必要があったのか?それは次に述べる「確率の基本性質」に触れるためでもあったのです。
確率の基本性質
前章で、なぜ「事象」という言葉を持ってきて、「確率」をややこしく説明したのかということを一言で言えば、「確率を数式で表すため」です。数式で書けるようになると、「計算」ができるようになりますし、何十文字もかかる説明を数文字で書き表せます。
以下の確率の基本性質についても文字で書けば何十文字にもなるところ、数文字で書き表すことができるようになりました。数式で書けば文字数が減らせて良いのですが、その意味するところは分かりにくくなります。そこで、この章では数式で書いたことを一つ一つ文章で説明します。
まずは、確率の基本性質をご覧ください。
確率の基本性質
1. 確率$P(A)$の値の範囲
$$ 0 \le P(A) \le 1 $$
特に、$P(\phi)=0$、$P(U)=1$
2. 確率の加法定理
A、Bが互いに排反のとき、
$$P(A \cup B)=P(A) + P(B)$$
3. 和事象の確率
$$P(A \cup B)=P(A) + P(B) – P(A \cap B)$$
4. 余事象の確率
$$ P(\overline{A})=1-P(A)$$
1. はそんなに難しいことを言っているわけではありません。文章にすると「確率は0%から100%の間」となります。たまに自分の自信を相手に伝えようと「成功確率120%!」と言ったりしますが、あれは冗談か、もしくは数学では推し量ることのできない概念が用いられています。
2. には「排反」という難しい言葉が出てきています。「2つの事象が互いに排反」とは「2つの事象が同時には起きない」ということです。よって、2. を文章にすると「A、Bが同時に起きない事象であるとき、AもしくはBが起きる確率は、Aが起きる確率とBが起きる確率の和となる」となります。
サイコロを例にとって説明します。事象Aを「サイコロの奇数の目が出る」、事象Bを「サイコロの偶数の目が出る」とします。サイコロに書かれている数字は偶数か奇数かどちらかですので、A、Bは同時には起きません。すなわち、A、Bは互いに排反です。このとき、「サイコロの奇数の目、もしくは偶数の目が出る確率」は$\frac{1}{2}+\frac{1}{2}=1$となります。当たり前ですね。
3. は「AとBの和事象は、Aの確率とBの確率の和から、AとBの積事象の確率を引いたものとなる」と言っています。ちょっと難しくなってまいりました。
例によって、サイコロで確認します。事象Aを「サイコロの奇数の目が出る」、事象Bを「サイコロの3以上の目が出る」とします。このとき、AとBの積事象は「3、もしくは5の目が出る」となります。
$P(A)$は$\frac{1}{2}$、$P(B)$は$\frac{2}{3}$、$P(A \cap B)$は$\frac{1}{3}$なので、和事象の確率についての上記3. の基本性質を適用すると、$P(A \cup B) =\frac{1}{2}+\frac{2}{3}- \frac{1}{3}=\frac{5}{6}$となります。
上記基本性質を使わず、普通に求めてみますと、$A \cup B$は「1、3、4、5、6が出る」事象なので、$P(A \cup B) = \frac{5}{6}$となり、同じ結果となることが分かります。
また、AとBが排反のとき、$P(A \cap B)$は$0$となり、3. は2. と全く同じになります。
4. は「Aの起きない確率は、1から、Aの起きる確率を引いた確率となる」です。これは直感的に理解しやすいですが、問題を解くうえではついつい忘れてしまいがちです。これを覚えているだけでかなり難易度が下がる確率の問題は多いです。
以上、確率の基本性質でした。1. は当たり前のことを言っているだけですし、2. は3. に含まれますので、実際覚えておくべきは「3. 和事象の確率」「4. 余事象の確率」の性質だけです。
では、確率の基本性質を意識しつつ、以下の問題を一緒に解いてみましょう。
確率の基本性質を用いた問題
例題 1車のナンバープレートには1から9999までの数字が割り振られる。1から9999までの数字が割り振られる確率が同様に確かである場合、割り振られる数字が3、または5の倍数である確率はいくらか。
今回は、確率の基本性質のうち、「3. 和事象の確率」を使う問題です。和事象の確率を求めるためには、それぞれの事象の確率と、積事象の確率を求めねばなりません。ここで事象Aを「ナンバープレートが3の倍数である」とし、事象Bを「ナンバープレートが5の倍数である」とすると、積事象A $\cap$ Bは「3の倍数かつ5の倍数である」、すなわち、「15の倍数である事象」となります。
それぞれの場合の数を求める計算は以下の通り。
- 事象Aの場合の数 : $9999 \div 3 = 3333$ 余り $0$ → $3333$
- 事象Bの場合の数 : $9999 \div 5 = 1999$ 余り $4$ → $1999$
- 事象A $\cap$ Bの場合の数 : $9999 \div 15 = 666$ 余り $9$ → $666$
最後に、「3. 和事象の確率」の性質を用い、
$$P (A \cup B) = \frac{3333}{9999} + \frac{1999}{9999} – \frac{666}{9999} = \frac{4666}{9999}$$
だいたい、$\frac{1}{2}$くらいになりました。
例題 2当たり3枚、はずれ7枚の計10枚のくじの中から3枚同時にくじを取り出し、少なくとも1枚あたりを引ける確率はいくらか。
この問題、「3. 和事象の確率」の性質を使って解くと非常に面倒なことがお分かり頂けるでしょうか?
少なくとも1枚当たりが引ける確率は、「1枚あたりが引ける確率」、「2枚当たりが引ける確率」、「3枚あたりが引ける確率」の和となります。幸いにしてこれら3つは排反なので、3つを場合分けして、それぞれ計算して、最後に足して、、、となりますが、非常に面倒です。しかし、確率の基本性質「4. 余事象の確率」を使うことで問題は劇的に簡単になります。
問題文に「少なくとも1つ」といったような言葉があったときは、この「4. 余事象の確率」を使うことを意識してみてください。「少なくとも1枚当たりを引く」ことの余事象は「1枚も当たりを引かない」ことなのです。すなわち、「すべてはずれ」の確率を求め、1から引けば、求めたい確率が得られます。
簡単ですね!難しい問題を最適な解法で解けたときはなかなか気分が良いものです。
確率の基本性質は理解できたでしょうか?確率の性質を理解することで問題は格段に簡単になり、確率についての理解も深まるため、とても重要です。今後とも確率の問題を解くときには、確率が持つ性質を意識しつつ問題を解き、確率についての理解を深めてください。
今回のまとめ
・確率は「事象Aの起こる場合の数÷起こりうるすべての場合の数」(ただし、すべての場合が同様に確からしいとき)
・確率の基本性質を使うことで簡単に解ける問題がある
・「少なくとも1つ」という言葉が問題文中にあるときは余事象の確率を考える
いかがだったでしょうか。数学の確率の問題をより詳しく勉強したい人は「数学 場合の数・確率 分野別標準問題精講」に取り組んでみるといいでしょう。お疲れさまでした。
コメント