みなさん、こんにちは。物理基礎のコーナーです。今回は【ばね】について解説します。具体的には、ばねによって生じる力、弾性力とは何なのか、フックの法則とは何なのか、ばねの公式を含めた基本事項を解説し、続いてばねの弾性によって生じる位置エネルギーの解説をします。
ばねは身近にあまりないように思うかもしれませんが、ほとんどの機械や乗り物はばねを活用していますし、ミクロな世界では分子や結晶の振動など、様々な場面にばねが存在します。
ばねの弾性力に関する問題はセンター試験にも必ず出題される重要項目で、他の分野と組み合わせることでいくらでも難しい問題を作ることができます。
つまり、ばねについて深く学べば学ぶほど得点は上がっていくということです。この機にばねについて詳しくなって頂きたいと思います。ばねについての公式をしっかり覚えて、ばねの問題をマスターしていきましょう。
ばねの弾性とは
一般的な高校物理の問題における「ばね」とは金属線を螺旋状に成形した「コイルばね」と呼ばれるものです。金属には「変形すると元の形に戻ろうとする性質 (塑性)」があり、この性質を機能として取り入れたものが「ばね」です。
引っ張りすぎるとその形のまま元に戻らなかったりするのですが、高校物理ではその辺はあまり考えません。ばね自体の質量も考慮しないことが多いです。
「塑性」によって元の形に戻ろうとする力を「弾性力」と呼びます。
ここで重要なのは、「ばねが元の長さからどれだけ変形したのか」ということと、「弾性力」の大きさが綺麗な比例関係にあるということです。
ばねの材料となる金属の硬さや成形の方法によって弾性力の大きさは異なりますが、すべての「ばね」は「引っ張る長さ」を2倍にすれば、「弾性力」も2倍、「引っ張る長さ」を3倍にすれば、「弾性力」も3倍になります。
この「ばねを引っ張る長さ」と「弾性力」の関係をまとめたものが「フックの法則」です。
フックの法則
$F= k x$
(弾性力:$F$、ばね定数:$k$、自然長からの伸び:$x$)
ばね定数とは、弾性力とばねの伸びの関係性を表す比例係数です。ばねの材質、成形方法によって変わります。
「自然長」とは「ばねの元々の長さ」のことです。
間違えないように注意しましょう。
また、ばねは引っ張って使う場合が多いですが、縮めて使うこともあります。縮めた場合に生じる弾性力は引っ張ったときに生じる弾性力と反対の向きになりますが、自然長から変化した長さが同じならば弾性力の大きさは同じです。
さて、以上が「ばねの弾性力」と「フックの法則」ですが、フックの法則を使うとどんなことが出来るのかを簡単に説明します。
以下の図のように、ばねに物体をぶら下げるとします。
すると、ばねが $x_0$ 伸びました。ばね定数 $k$は、ばねの材料、成形の方法で決めることができ、あらかじめ分かっている値です。フックの法則を使うことで、ばねの弾性力を求めることができます。
$$F = k x_0 $$
ばねの弾性力は物体に対して上向きの力を加え、ばねが吊り下げている物体の重力と丁度つり合っているため、物体の重さが分かります。最後に、得られた重さを重力加速度で割ることで、物体の質量を求めることができます。
これが体重計や料理で使う計量器の原理です。
力や質量というものは意外と測定が難しく、フックの法則の発見以前は重さを測るのに「天秤」を使っていました。
フックの法則によって、「ばねの伸び」を「力」に変換する方法が発見され、質量をより簡単、正確に測定することができるようになったのです。
ばねの弾性による位置エネルギーの公式
続いて、ばねの弾性力によって生じる位置エネルギーの話をしたいと思いますが、その前に、エネルギーと位置エネルギーについて復習します。
位置エネルギーとは
エネルギーとは「物を動かしたり、変形させたりする能力」のことです。高速で動く物体はぶつかると痛いです。
痛いということは人体の一部を変形させているわけですのでエネルギーを持っています。高温や、物を溶かす薬品なども物体を変形させる能力を持っていますので、エネルギーを持っています。
高いところにある物体も、落ちて頭に当たると痛いです。痛いということはエネルギーを持っています。ただし、高いところにある物体はそのままの状態ではものを変形させることはできません。
手を放して、重力によって加速したときに初めてエネルギーを持つわけであり、エネルギーを持つ可能性、エネルギーを持つ潜在能力 (ポテンシャル)を持っているわけです。
このように、潜在的にエネルギーを持っている場合のエネルギーを「位置エネルギー」と呼びます。
先ほどの例で、高いところにある物体は「重力による」位置エネルギーを持っています。
ばねの弾性力も物体に潜在的なエネルギーを与えます。
「カタパルト」という攻城兵器はその分かりやすい例ですが、ばねの弾性力によって弾に位置エネルギーを蓄え、解放することですべての位置エネルギーを運動エネルギーに変換して敵の城にぶつけます。「スリングショット」という狩猟器具も同じですね。
ばねによって蓄えられるのは「弾性力」による位置エネルギーです。
ばねの弾性力による位置エネルギーの導出
「重力による位置エネルギー」は物体の「質量」と「高さ」から $mgh$と決定することができるのでした ($m$:物体の質量、$g$:重力加速度の計算、$h$:物体の高さ)。
一方、「弾性力による位置エネルギー」は「ばねの伸び」のみで決定することができ、$kx^2 /2$ となります ($k$:ばね定数、$x$:ばねの伸び)。
なぜこうなるのかについては、「ばね」を習った段階では説明することはできません。
数学で「積分」を習い、もう少し後の物理で「仕事」を習った後ならば「弾性力による位置エネルギー」を導出することができます。
(位置エネルギー) = (力に逆らってした仕事) です。
(仕事) は $\int_0^x \rm{(力)} dx’$ なので、
\begin{eqnarray} \rm{(弾性力による位置エネルギー)} = \int_0^x kx’ dx’ = kx^2 /2 \end{eqnarray}
となります。
弾性力による位置エネルギーの公式
$ U= kx^2 /2 $
弾性力による位置エネルギーの問題
では、練習問題を解いてみましょう。
例題ばね定数 $k$のばねの一端に質量 $m$の金属球を取り付け、他端は天井に取り付けて天井から吊るしたところ、自然長から鉛直下向きに $x$伸びた状態で静止した。この状態から金属球を手で下向きに引っ張り、自然長からの伸びが $3x$となった状態から手を離すと金属球は上向きに勢いよく移動を始めた。ばねが自然長になるとき、金属球の速さを $k$、$m$、$x$を使って表せ。
重力加速度を $g$、自然長における金属球の位置を $\overrightarrow{0}$、鉛直下向きを正の向きとして考えます。
まず、静止状態のばねの弾性力と重力との力のつり合いについて考えると、力の大きさについて以下の式が成り立つことが分かります。
\begin{eqnarray} kx = mg \cdots (1) \end{eqnarray}
次に、力学的エネルギーの保存ついて考えます。物体から手を放してから、物体には非保存力は働いていないので力学的エネルギー保存が成り立ちます。
今回の問題に関係する力学的エネルギーは「運動エネルギー」、「重力による位置エネルギー」、「弾性力による位置エネルギー」の3つです。
よって自然長からばねを $3x$伸ばした状態の力学的エネルギーの総和と、ばねが自然長になるときの力学的エネルギーの総和が等しいという方程式を立て、速さを求めればよいことが分かります。
ばねが自然長になるときの金属球の速さを $v$とすると、それぞれの力学的エネルギーは以下のように求めることができます。
\begin{eqnarray} \rm{(ばねの伸び} 3x \rm{における力学的エネルギーの和)} &=& k(3x)^2 /2 – mg \times 3x \\ &=& 3kx^2 /2 \;\;\; (\because \rm{(1)より}) \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} \rm{(自然長における力学的エネルギーの和)} &=& mv^2 /2 \end{eqnarray}
ゆえに、以下の等式が成り立ちます。
\begin{eqnarray} 3kx^2 /2 = mv^2 /2 \end{eqnarray}
これを解くと、
\begin{eqnarray} v=x \sqrt{3k /m} \end{eqnarray}
となり、答えが得られました。
まとめ
今回のバネの問題について以下の公式は必ず覚えておきましょう。
・ばねの弾性力は自然長からの伸びに比例する。 $F=kx$
・ばねの弾性力による位置エネルギーは $U=kx^2 /2$
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お疲れさまでした・
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