みなさん、こんにちは。今回は【等加速度運動】を扱っていきますが、特に「等加速度直線運動」に焦点を当てていきます。
物理を考えるうえで、対象が複雑であれば、それを単純化して考え、理解を優しくすることは重要なプロセスです。
等加速度直線運動は等加速度運動をより単純化したもので、物体の運動を理解する助けとなるでしょう。
ここでは等加速度直線運動とは何かについて、他の加速度運動と比較しながら解説し、等加速度直線運動を扱った計算問題を見ていこうと思います。
練習問題を通して、公式やグラフの使い方を学び、等加速度直線運動をマスターしましょう。
等加速度直線運動とは何か?
等加速度直線運動とは、等加速度運動であり、かつ、直線運動する物体の動きのことです。
直線運動は比較的理解しやすいと思います。物体の落下や、坂道を転がるボール、直進する自動車など、一直線上の運動のことです。
等加速度運動については以下の記事で触れましたが、加速度が常に同じ運動のことです。
等加速度直線運動における速度 $ v (t) $と移動距離 $ x (t) $の公式は以下のようになっていました (加速度 $a$、初速度 $v_0$の場合)。
時刻-速度の関係:$ v (t) = a t + v_0 $
時刻-移動距離の関係:$ x (t) = \frac{1}{2} at^2 + v_0 t $
加速度は「向き」と「大きさ」を持つので、その両方が一定でなければ「等加速度運動」とは呼べません。
直線運動となるためには、速度の向きと物体に働く力の向きが平行でなければなりません。
仮に、ボールを地面と平行な方向に勢いよく放り投げることを考えます。さながら野球のピッチャーが放つストレートのように。すると、鉛直下向き、地球の中心に向かう重力により、下向きの加速度が生じ、ボールは横方向に進みつつ、段々と落下し、ついには地面にぶつかってしまいます。物を投げたときの運動は等加速度運動ではありますが、等加速度直線運動ではありません。
ちなみに、ボールを真上に投げ、空中で静止した後、落下する、という一連の運動は等加速度直線運動です。
真上に投げた場合は速度の向きと重力による加速度の向きは常に平行で、かつ、重力による加速度の大きさは常に一定だからです。速度は常に変化していますが、加速度は一定になっていますし、行ったり来たりしていますが、直線上を運動しています。
色々な運動まとめ
これまで習った色々な運動をまとめて、眺めて、関係性について考えてみたいと思います。
高校物理で習った、〇〇運動の中で、最初に習ったのは、等速直線運動ではないでしょうか。
等速直線運動とは「速度」が一定の運動ですが、等速直線運動をしている物体には力が働いておらず (働いていたとしても、足し合わせるとゼロ)、加速度もゼロです。
また、等速直線運動は加速度が常に一定 (ゼロ)なので、等加速度直線運動であるとも言えます。
等加速度直線運動は等加速度運動に含まれます。それぞれの包含関係をまとめると以下のようになります。
等加速度直線運動がどのような運動か、理解できたでしょうか。理解できているならば、次は練習問題を見ていきましょう。
等加速度直線運動の計算問題(グラフを使って問題を解く)
今回のメイントピックです。計算問題を解いていきましょう。
例題ボールを鉛直上向きに投げ、ボールの軌道を観測した。時刻 $t=0$ で上向きにボールを投げ、時刻 $t=0$ におけるボールの位置を原点とする。時刻 $t=0$ におけるボールの速さが $v_0$ のとき、ボールが原点に戻ってくる時刻を求めよ。ただし、重力加速度の大きさを $a$ とし、空気抵抗は考えないものとする。
ボールを真上に投げて、落ちてくるまでの時間を計算する問題です。色々な解き方がありますので、それぞれの解き方を順番に見ていきましょう。
解法 1. 時刻-位置のグラフを描いて解く
時刻と位置の関係式を導くことができれば、その式に対し、位置=$\overrightarrow{0}$ を代入することで、そのときの時刻を求めることができます。
以下では、鉛直上向きを正の方向とし、原点に対するボールの位置を $y$ として、ボールの速さを $v$ とします。
手から離れたボールには重力以外の力は働いておらず、重力加速度以外の加速度は働きません。よって、速度の式は以下のように表されます。
$$v = v_0 -at \cdots (1)$$
時刻-速度のグラフを描いてみましょう。
速度は頂上に達したときにゼロとなり、それ以後はマイナスの速度となります。すなわち落下していきます。グラフの形は時刻 $t_0$ で時間軸を横切る直線です。
次に物体の位置と時刻の関係を求めます。
物体の移動距離は「『速度の描く曲線』、『時間軸』、『時間の領域』で囲まれた図形の面積」となるのでした。
頂上に達する前後では囲まれてできる図形の形が異なるので、頂上に達する前と後で、位置を求める計算が異なります。まず、頂上に達する前の、時刻と位置の関係を求めます。
ボールが頂上に到達する時間を $t_0$ とすると、$t < t_0$ のときのボールの移動距離は下図の中の青色の台形面積となります。
台形面積は (上底$+$下底)$\times$高さ$\div 2$ で求められるので、ボールの位置 $y$ は
\begin{eqnarray} y &=& (v_0 + v_0 -at) \times t \div 2 \\ &=& – \frac{1}{2} at^2 + v_0 t \cdots (2)\end{eqnarray}
となります。次に $t > t_0$ の場合です。下図をご覧ください。
物体の移動距離は青三角と赤三角を足したものになりますが、赤三角はマイナス方向、つまり落下する方向に移動した距離です。よって物体の位置は図中の青色三角形の面積 (上向きに移動した距離)から、赤色三角形の面積 (下向きに移動した距離)を引いたものとなります。
\begin{eqnarray} x &=& t_0 \times v_0 \div 2 \; – (t-t_0) \times \left| v_0 -at \right| \div 2 \\ &=& \frac{1}{2} v_0 t_0 \; – (t-t_0) \times (at -v_0) \div 2 \\ &=& \frac{1}{2} v_0 t_0 \; – \frac{1}{2} (at^2 -v_0 t -at t_0 + v_0 t_0) \\ &=& \frac{1}{2} (-at^2 +at t_0 +v_0 t) \cdots (3) \end{eqnarray}
ここで、$t_0$ は速度が $0$ となるときの時刻なので、(1)式より、
\begin{eqnarray} 0 &=& v_0 -at \\ t &=& \frac{v_0}{a} \cdots (4) \end{eqnarray}
(3)、(4)式より、
\begin{eqnarray} y &=& \frac{1}{2} (-at^2 +at \frac{v_0}{a} +v_0 t) \\ &=& – \frac{1}{2} at^2 + v_0 t \cdots (5)\end{eqnarray}
結局 (2)式と(5)式は同じ結果となり、$t=t_0$ 前後で $y$ は同じ形となります。すなわち、すべての時間領域で、位置 $y$ は、
\begin{eqnarray} y = \; – \frac{1}{2} at^2 + v_0 t \cdots (6) \end{eqnarray}
となります。図を描いてみると、
位置が $0$ となる時刻は、(6)式に $x=0$ を代入すればよいので、
\begin{eqnarray} 0 &=& – \frac{1}{2} at^2 + v_0 t \\ 0 &=& t (- \frac{1}{2} at + v_0) \end{eqnarray}
よって、$t=0$, $\frac{2 v_0}{a}$ となります。
$t=0$ はボールを投げたときのことなので、戻ってくる時刻は $t=\frac{2 v_0}{a}$ となります。
解法 2. グラフの対称性を使って解く
時刻-位置のグラフを見ていて気付いたかもしれませんが、時刻-位置のグラフは $t=t_0$ (頂上に達するときの時刻)を境に折り返したような形になっています。ちょうど時刻 $t=t_0$から時間を巻き戻してボールの動きを観測した場合と同じ動きになっている、ということです。またの名を線対称とも。
投げてから頂上に達するまでに $t_0$ かかるので、頂上に達してから戻ってくるまでにも同じく $t_0$ かかります。
よって、投げてから戻ってくるまでにかかる時間は $2t_0 = \frac{2 v_0}{a}$ となります。
解法 3. 戻ってくるときの速度を考えて解く
時刻-速度のグラフにも対称性があります。ただしこちらは線対称ではなく点対称です。点($t_0$, $0$) を中心として点対称なグラフになっています。
時刻 $t=2 t_0$ における速度は $t=0$ における速度と向きが反対で大きさが同じになっているはずです。
時刻-速度の関係式 (1)より、速度が $-v_0$ となるときの時刻は、
\begin{eqnarray} -v_0 &=& v_0 -at \\ t &=& \frac{2 v_0}{a} \end{eqnarray}
となります。以上、3つの方法で解きましたが、答えは全ての方法で同じになっていることが分かります。
色々な解き方を試してみましたが、最も簡単なのは3つめの解き方です。ただし、空気抵抗などが働くときには、戻ってきたときの速さは最初の速さと異なります。その場合は1つめの解き方を使うことになるでしょう。どの解き方も等加速度直線運動の理解を深めるうえでは重要です。
今回のまとめ
等加速度直線運動の問題は力、加速度、速度などを理解する基礎となり、それらを理解しているかを簡単に把握できるため、よく出題されます。
グラフ、公式、実際の動きがリンクするように、練習問題を積み重ねて理解を深めていきましょう。
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