静止している物体に、力を加えなければそのまま止まったままです。
今回はニュートンの運動法則の第一法則である慣性の法則とは何か、また、実際に入試で問われるときはどのような形なのか、解説をしていきます。
慣性の法則とは?
「慣性の法則」とは、「力を受けていない物体は一定速度のままである」という法則です。
つまり力を受けていなければ、静止している物体は静止し続け、動いている物体はまっすぐ一定の速度で動き続けます。
これはニュートンの三つの法則の一つ目にあたる第一法則であり、運動を考える上で重要な法則なのでしっかり覚えておきましょう。
慣性の法則を式で表すと
慣性の法則の式をニュートンの第二法則である運動方程式F=maから確認してみましょう。
まずニュートンの第二法則について軽く説明していまいます。
「力を受けない物体は一定速度のまま動き続ける」ということは、慣性の法則として先ほどご説明しました。では力を受けるとどうなるでしょうか。
そうです。速度が変化しますね。言い換えると加速度が変化するということです。
式で表すと運動方程式「F=ma」となり、ニュートンの第二法則と呼ばれています。(F:力[N]、m:物体の質量[kg]、a:加速度[m/$s^2$])
冒頭で述べた通り、ここから慣性の法則を確認することができます。いま、力を受けていないためF=0となります。
これを運動方程式に代入すると
0=ma ⇨a=0
加速度は0であるということは、速度が一定のままであることがわかり、慣性の法則を確認することができました。
慣性力とは?
今まで慣性の法則についてみてきました。いまから慣性力についてみていきたいと思いますが、慣性の法則と名前が似ていますが少し違います。ざっくりとした違いを先にご説明します。
「慣性の法則」とは名前の通り「法則」であるため、運動の性質を表しています。
これに対して「慣性力」とは人間が運動を考えやすくするために導入された考え方なのです。
よってこの二つは同じ「運動」について表すものですが、出てきたところが違うため混同しないようにしましょう。
さて、慣性力について説明していきたいと思います。
慣性力とは一言で言ってしまうと「つじつまを合わせるために考える仮想的な力」のことです。これではよくわからないと思うので、言葉の説明と数式の説明の二つの視点から見てみましょう。
まず、「慣性系」と「非慣性系」という二つの用語を確認します。
「慣性系」とは、実在の力だけで運動方程式ma=F が成立する座標系のことです。この慣性系に対して加速度を持つ座標系のことを「非慣性系」といいます。
簡単な例をあげると、地面が慣性系、動いている電車が非慣性系と考えることができます。
運動を考えるにあたって運動方程式ma=Fで全てを考えたいものの、非慣性系では実在の力だけでは運動方程式は成立しません。よって非慣性系でも運動方程式を使えるように考えた実在しない仮想的な力を「慣性力」といいます。
次に簡単な数式で考えてみましょう。
加速度Aで動いている電車に加速度aで同じ方向に動いている質量m[kg]の物体があったとします。このとき物体には摩擦力Fが加わっていると考えると、地面から見た慣性系での物体の運動方程式は
ma = F …①
次に電車と共に動く非慣性系から物体を見ると、物体の加速度a’はa’=a – Aと考えられます。ここで非慣性系では運動方程式が成立しないため、正しくないが物体の運動方程式を仮に立ててみると
ma’ = F
⇨m(a – A) = F …②
②を正しい運動方程式①にするために変形すると
ma’ = F -mA
右辺に-mAを考えることでaとa’は同じように扱えて、非慣性系でも運動方程式を正しく立てることができます。このつじつま合わせの-mAを慣性力と呼んでいます。
つじつま合わせのため、実際にこの力は存在しない仮想的な力であることに注意しましょう。
慣性の法則が実際に生じる例
慣性力とは、慣性の法則をうまく説明するために考えられた仮想的な力ということは既に述べました。
慣性力の考え方を用いて慣性の法則が実際に生じる例を考えてみましょう。
電車・エレベーター
例として、電車とエレベーターで考えましょう。これらの例は、前後に動くか、上下に動くかの違いで、根本的な部分は大きく変わりません。
まず電車に乗っているときのことを思い出してみてください。
電車が出発すると、体は後ろに傾きますよね。これは電車が前方へ加速しているため、車内の観測者から見ると、車内の人や物体には後方への慣性力が加わるためです。
そして電車が一定のスピードに、つまり加速度が0になると、体が傾くことはありません。慣性力がはたらかないからです。
最後に電車がブレーキをかけると、今度は体が前のめりになります。これもブレーキと逆向き(電車の進行方向)に慣性力がはたらくためなのです。
次のエレベーターに乗ったときのことを思い出してみてください。
①上昇すると体が少し重く感じる
②停止する時は体が軽くなるような「ふわっ」とした浮遊感を感じる
③下降する時は初めに浮遊感を感じる
④停止する時に体が重くなる感覚がある
これらの感覚もすべて、慣性力によるものです。
①③の場合はエレベーターが鉛直上方向へ加速しているため、エレベーターに乗っている人からすると下向きの慣性力が加わり、体が重くなったと感じるのです。
逆に②④の場合は鉛直下向きの加速をするため、慣性力は上向きにはたらき、体が軽くなったような浮遊感があるのです。
達磨落とし
今度は、達磨落としを例に考えてみましょう。
達磨落としとは、木片を3~5個積み立てた上に、達磨の顔をした木片を置き、その達磨を倒さないように積み立てた木片を小槌で打ち抜く遊びです。
狙った木片だけを小槌で勢い良く打ち抜くと、その木片だけが飛び出て、上に乗っていた木片や達磨は倒れることなく真っ直ぐ重力に引かれて落ちます。これが、木片と達磨の慣性によるものです。
つまり、力を加えられえた木片のみが真横へ打ち抜かれ、上に乗って静止していただけの木片と達磨は静止し続け、そのまま真下に落ちてきたということです。
慣性の法則を利用した入試問題について
慣性の法則を利用した入試問題を解いてみましょう。1〜7に言葉を入れてみましょう。
(出典 2002 立命館大学)
解答及び解説
非慣性系から見ている時は、慣性力が働いていることに注意して運動方程式を立てましょう。
図1(くさび上の観測者Xからみた力)
図2(地上の観測者Yからみた力)
解説:図1で、くさびと共に加速度αで運動している観測者Xを考えてみます。この時、観測者Xには質量mの物体に加速度と逆向き(この場合は水平左方向です)で大きさmαの慣性力がはたらくように見えます。
解説:くさび上の観測者Xから見たとき、物体Aには水平左方向にmα、鉛直下方向にmgの力が加わるように見えます。斜面下方向を正とすると、斜面方向に関する運動方程式は上に記したようになります。(図1)
解説:同様にくさび上の観測者Xから見ると、物体Aは斜面から離れないで滑り落ちます。つまり斜面に垂直な方向における力は釣り合っているので、加速度は0であると言えます。斜面に対して垂直上方向を正とすると、斜面垂直方向の運動方程式は上に記したようになります。
解説:地上の観測者Yを考えると、くさびには上の図1のような力が加わります。水平右向きを正とすると、運動方程式はMα=Rsinθとなり、これを抗力Rについて解くと、解答として上に記したようになります。(図2)
解説:(4)で求めた抗力Rを(3)で求めた運動方程式に代入し、加速度αについて整理すると上に記した答えになります。
解説:(5)で求めた加速度αを(2)で求めた運動方程式に代入し、加速度βについて整理すると上に記した答えになります
解説:物体Aが最下点Bに達するまでの時間をtとすると、観測者Xから見て物体Aは$l$だけの距離を初速度0、加速度βで運動しているように見えます。
$l$=0×t+$\frac{1}{2}$β$t^2$
これに(6)で求めたβを代入します。
$t^2$=$\frac{2l}{β}$=$\frac{2l(M+m(sinθ)^2)}{(M+m)gsinθ}$
次に観測者Yから見ると、くさびは時間tの間に初速度0、加速度αで運動するため、移動する距離をxとすると、xは以下の式に(5)で求めたαと先ほど求めたt^2を代入すると、上に記した解答を求めることができます。
x=0×t+$\frac{1}{2}$α$t^2$
大学入試に必要な慣性の法則を理解しよう
今回は以下の内容を学びました。
最後に復習をしましょう。
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