皆さんこんにちは!今回の記事では商業的農業について説明したいと思います。商業的農業は日本にとってとっても身近なものです。日本の農業の経営形態は、自給自足の生活のために行っている場合を除けばそのほとんどが商業的農業といえます。
商業的農業は発達した都市において、その機能を維持するために必要不可欠な農業であるといえます。都市の機能を維持するために、都市で生活する人々の分の農作物を生産するための農業であるというふうにとらえることもできるからです。
そこで、記事を通して、都市の機能を維持するのに役立っている、商業的農業についてその種類である地中海農業、混合農業、園芸、酪農について解説するとともに実際の商業的農業についての入試問題を解いてみましょう。
この記事を読んで理解できること・商業的農業とは何かについて理解できる
・商業的農業の種類や関連する項目について理解できる
商業的農業とは
商業的農業とは、農業を行うことによって生産される作物を販売することを目的として行う農業のことを指します。商業的農業は、工業・その他商業が発達することによって都市への人口集中が進み、農畜産物の市場取引が成立した地域によく見られます。
具体的にはヨーロッパ諸国、アメリカ、日本といった先進国の農業です。これらの多くは商業的農業であるといえます
商業的農業の種類
商業的農業には農業を行う地域に適応する形で様々な農業形態が営まれてきました。具体的には、
- 中世の北西ヨーロッパを起源とする三圃式農業をはじめとした混合農業、
- その名の通り地中海で発達し、地中海性気候に対応する形で営まれてきた地中海式農業
- 都市への出荷を目的として花卉類や野菜類など商品価値の高い農作物を生産する園芸農業
- 農作物栽培に適さない地域において牛乳をはじめとした乳製品の生産を目的とする酪農
などを代表的なものとして挙げることができます。農業形態別に見た地域の特性は次のようになります。
混合農業とは
混合農業とは、穀物・飼料作物といった作物栽培と家畜の飼育を組み合わせたうえで行う農業形態のことを指します。
穀物と飼料作物は輪作という形で栽培され、穀物は主に小麦・ライ麦が、飼料作物は主に大麦・甜菜・牧草などが栽培されます。
家畜は肉牛・豚・鳥といった家禽類が中心です。穀物栽培の比重や畜産物販売で得られる収入などを目安として、商業的混合農業と自給的混合農業に細分されます。
混合農業のおこり〜 三圃式農業について
三圃式(さんぽしき)農業とは、耕地を夏作物・冬作物・休閑地の3つに分け、これらを1年ごとにローテーションさせて行う農業形態のことです。
このような行為を行うこととして、農業におけるリスクの一つである連作障害を防ぐことが目的としてあげられます。
連作障害とは、同じ土地に同じ作物を植え続けることによって地力が弱くなり、農業の生産性が落ちてしまうということです。
これを防止するために、地力を回復させる作物を植える、あるいは休耕して土地を休ませるといったことを行う必要があります。三圃式農業はそのような連作障害へ対応するために、中世ヨーロッパ北西部において生み出された農業形態です。
近年では、三圃式農業で見られた休閑地をなくし、夏作物・冬作物・根菜類・飼料作物(牧草)をローテーションさせて農耕を行う輪作が行われており、この農業形態のことを混合農業と呼ぶことがあります。
混合農業の地域と代表的作物
混合農業はドイツ・フランス・イタリア北部などをはじめとしたヨーロッパ中部で盛んです。これら地域の代表的な作物は次の表にあげられるものです。
表を見ていて気付きませんか。実は、それぞれの国の名物料理と深くかかわっているものなんですね。
また、アルゼンチンやアメリカのコーンベルトと呼ばれるトウモロコシ生産が盛んな地域でも混合農業が盛んです。
酪農とは
酪農とは、乳牛などを飼育してその過程で得られる生乳をもとにバターやチーズといった乳製品の生産を目的とする農業形態のことを指します。
気候が冷涼である、あるいは地力が弱いなど作物栽培に不向きな地域で見られます。
大消費地の近郊では生乳・クリームといった新鮮さが求められる乳製品の生産が多く、大消費地から離れたところでは、バター・チーズなどといった保存のきく乳製品の生産が多いのが特徴です。
酪農盛んな地域と代表的作物
酪農が盛んな地域は北西ヨーロッパの北海沿岸・バルト海沿岸、アメリカ合衆国の五大湖沿岸など比較的冷涼な気候の地域が多いです。
なかでも、北欧に位置するデンマークでは世界初の農業共同組合が設けられ、現在でも先進的な農業が行われています。
また、オランダは国土の20パーセント近くがポルダーと呼ばれる干拓地で、塩分を含んだ土地も多く農業に適さない土地が多いことから酪農が盛んです。
また、スイスでは牧草を安定的に得るために夏季と冬季で酪農を行う場所を変える移牧と呼ばれる農業形態が見られます。
移牧が行われる地域(スイス)
Photo ACのフリー素材より
夏季になると写真のような高地に移住して、酪農を行っています。
園芸農業とは
園芸農業とは、大消費地である都市への出荷を主な目的として、商品価値の高い作物である野菜・果物・花卉・庭木といった作物を集約的かつ重点的に行う農業のことです。
商品価値の高い作物を重点的に、また集約的に生産することが園芸農業の特色であるといえ、作付面積が少なくても利益が得られるような経営形態で行われるのが特徴です。
園芸農業の特色
園芸農業は、できる限り多くの収量、収入を得るために様々な工夫がなされます。その形態の一つが近郊農業です。
近郊農業はその名の通り大都市の近郊で行われる農業のことで、消費地である都市へのアクセス性を活かして、新鮮さを重視する農畜産物(野菜・花卉・牛乳など)を生産していることが多いです。
ただし、自然環境の良好さ、技術的に難しいなど、近郊農業よりも有利に出荷できる場合においては、トラックファーミングともよばれる遠郊農業の形態をとることもあります。
園芸農業では、都市の消費動向に合わせて作付けする時期を調整する工夫も行われています。
例えば、温室と呼ばれる温度を調整することのできる空間を用いて行われる温室栽培によって、露地栽培で収穫できる時期よりも先に野菜を収穫するための工夫が行われています。これを促成栽培と呼び、日本では九州地方や四国地方南部でよくみられる農業形態となっています。
一方で、冷涼な地域においては、露地栽培で収穫できる時期よりも後になるように作付時期をずらしながら農作物が栽培されることがあります。これを抑制栽培と呼び、日本では群馬県や長野県嬬恋村などの高原地帯でよくみられる農法となっています。
(園芸農業)
地中海式農業とは
地中海式農業とは、地中海性気候の条件下で行われる農業形態のことです。
地中海性気候(Cs)は、夏に高温乾燥、冬に温暖湿潤という気候特性を持っていますが、これに応じる形で農作物を生産していきます。
例えば、夏季には乾燥に強い家畜や樹木の栽培を、冬季には降雨を利用して小麦などの穀物を栽培しています。
地中海式農業の盛んな地域と代表的作物
地中海式農業の盛んな地域は地中海性気候の地域で、特にヨーロッパの地中海沿岸の地域で盛んです。ほかにもアメリカのカリフォルニア州や南アフリカ、南米のチリ中部などでも盛んです。
地中海式農業が行われる地域では、羊やヤギの牧畜(移牧形態が中心)、オリーブやオレンジといった乾燥に強い樹木作物、冬季を中心に自給用の穀物(小麦)が生産されています。
(オリーブ)
商業的農業の問題の出題例
商業的農業の出題例
商業的農業はセンター試験をはじめ大学受験でもしばしば出題されるテーマです。どのような形で出題されているのかということについて、ここでは2018年実施のセンター試験の過去問を例に見ていきましょう。
例にあげたこの問題では、農業の技術革新が商業的農業をはじめとした農業形態にどのような影響を与えてきたかということについて問われています。
解答解説
各選択肢の下線部を検討すると次のようになります。
- ① 作物の生産量を安定させることは自給的農業でも求められるが、商業的農業のほうが求められる。よってこの下線部は不適当
- ② アグリビジネスの展開には大規模な生産が必要不可欠であることから下線部は正しい
- ③ 経営耕地面積の小さい農家では農業以外の収入を主とする副業的な農家は多い。これらは兼業農家と呼ばれており、副業的な農業は副業規定の厳しい公務員においても認められている副業である。よって下線部は正しい
- ④ 主要な市場から遠い南半球における酪農や肉牛生産は遠方の消費地にいかに鮮度を維持しながら生産物を届けるかがカギとなる。よって下線部は正しい
以上の点から①が不適当であるため、①がこの問題の解答となります。
この問題では、商業的農業が行われる理由について考え方を問われています。このように理解しているかを問う問題は、2021年より実施の共通テストでも出題される予定です。
商業的農業のまとめ
商業的農業について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。
商業的農業には次のような種類がありましたね。
混合農業
穀物・飼料作物といった作物栽培と家畜の飼育を組み合わせたうえで行う農業形態
酪農
乳牛などを飼育してその過程で得られる生乳をもとにバターやチーズといった乳製品の生産を目的とする農業形態
園芸農業
大消費地である都市への出荷を主な目的として、商品価値の高い作物である野菜・果物・花卉・庭木といった作物を集約的かつ重点的に行う農業形態
地中海式農業
地中海性気候の条件下で行われる地中海性気候の特性に合わせた農業形態
商業的農業は我々の生活を豊かにするにあたって必要不可欠な農業です。特に、農地を持たない大都市においては、商業的農業によって生産される農畜産物によって大都市に住む人々の食糧が賄われていることから、都市を維持するための生命線となっているといっても過言ではないと思います。
食生活を眺めながら、商業的農業がどれだけ私たちの暮らしにかかわっているのか、もう一度確かめてみるのもいい勉強になると思います。
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