みなさん、こんにちは。数学IAのコーナーです。今回は【最小公倍数・最大公約数で「タイル敷き詰め」と「素数ゼミ」問題を解く】です。
最小公倍数と最大公約数はちゃんと日常生活や自然界を理解するための役に立っています。今回はその例として「タイルの敷き詰め」と「素数ゼミ」について見ていきたいと思います。
最小公倍数・最大公約数については以前にも記事を出しています。詳しくは「【数学IA】整数の性質を理解しよう!」をお読みください。
最小公倍数、最大公約数とは?
まず中学の復習として、最小公倍数と最大公約数の定義を以下に示します。
最小公倍数・最大公約数の定義
最小公倍数・・・2つ以上の自然数に共通な倍数のうち最小のもの
最大公約数・・・2つ以上の自然数に共通な約数のうち最大のもの
最小公倍数・最大公約数と聞いて、すぐにイメージできる人もそうでない人もいると思います。新たな概念を学ぶとき、その概念を様々な角度から眺めることで、イメージは強化され、理解はさらに深まります。
高校で習った「集合」という角度から「最小公倍数・最大公約数」を眺めてみましょう。
例として、$72$と$96$の最大公約数について考えます。
$72$の約数の集合を$A$、$96$の約数の集合を$B$とすると、
$$A= \{ 1, 2, 3, 4, 6, 8, 9, 12, 18, 24, 36, 72 \}$$
$$B= \{ 1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 16, 24, 32, 48, 96 \}$$
そして$A$と$B$の共通部分は
$$A \cap B = \{ 1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24 \} $$
となっています。これはまさに「2つの自然数の共通な約数」の集合であり、「公約数」の集合となっています。
つまり、最大公約数はこのように言い換えることもできるわけです。
最大公約数の定義 (集合の観点から)
最大公約数・・・n個の自然数の約数の集合$A_1$、$A_2$、、、$A_{\rm n}$の共通部分$A_1 \cap A_2 \cap \cdots A_{\rm n} $の要素のうち、最大のもの
最小公倍数についても集合を使って以下のように書き表すことができます。
最小公倍数の定義 (集合の観点から)
最小公倍数・・・n個の自然数の倍数の集合$B_1$、$B_2$、、、$B_{\rm n}$の共通部分$B_1 \cap B_2 \cap \cdots B_{\rm n} $の要素のうち、最小のもの
当たり前の方にとっては当たり前の話。しかし、数学というのは進むほどに様々な「繋がり」が見えてくるもので (「2次曲線と図形の相似」や「速さと曲線の傾き」など)、その「繋がり」が見えたときにこそ、数学についての理解は深まります。
この記事でも、「最小公倍数・最大公約数」と様々なものを結び付けることで、理解を深めて頂きたいと思います。
なお、最小公倍数、最大公約数の求め方については、以前「最小公倍数と最大公約数の問題をユークリッド互除法で解決」で解説記事を書いています。
こちらで、ユークリッドの互除法や、受験問題の解き方も紹介しているので、ご一読ください。
最小公倍数、最大公約数が何の役に立つのか?
ここまで、最小公倍数、最大公約数とは何なのか、またその求め方について述べました。
とはいえ、求めて終わりでは「問題のための問題」となってしまいます。
数学とは一種の「道具」ですので、全く役に立たないのなら、数学が存在する価値は半減してしまいます。
最小公倍数、最大公約数も世の中で役に立っているからこそ、高校数学で習うわけです。では、どのように役に立っているのか。ここではその一例を紹介します。
最大公約数とタイルの敷き詰め
最大公約数が役に立つのは「タイルの敷き詰め」問題です。以下の例題を一緒に解いてみましょう。
例題 1縦78 cm、横104 cmの壁にすべて同じサイズの正方形のタイルを隙間なく敷き詰める。タイルの大きさは自由に変えることができるが、1 cm × 1 cmが最小単位であり、長さは1 cm刻みでしか変えられず、サイズに関わらず1つのタイルの値段は同じであった。 費用を最小にしつつ、壁をタイルで敷き詰めるにはタイルの一辺の長さは何 cmとすべきか。
有名な「タイルの敷き詰め」問題です。業者さんもケチケチせずにmm単位まで自由度を持たせればいいのですが、世の中そう上手くいかないものです。
また「タイルの大きさを変えながら敷き詰めた方が美しい」とかもここでは考えないようにしてくださるとありがたいです。現実世界では1 cmほどの違いであれば、タイル職人さんの腕でカバーできますが、タイル職人さんの負担を減らすためにも事前にしっかりと設計図を作り上げることも重要です。
ここで、サイズに関わらずタイルの値段が同じですので、タイルを敷き詰める費用を最小にするには、できるだけ大きなタイルを使って、タイルの枚数を減らすことが望ましいです。
こういった問題に役に立つのが最大公約数です。
仮に78の約数の長さを持つタイルを持ってくれば縦方向に隙間なく壁を埋め尽くすことができます。例えば3 cm × 3 cmのタイルであれば縦に26個でぴったり78 cmです。
同様に104の約数の長さを持つタイルは横方向に壁を隙間なく埋め尽くすことができます。
そして、78と104の公約数の長さを持つタイルは、縦方向にも横方向にも壁を隙間なく埋め尽くすことが可能です。1 cm × 1 cmのタイルであれば、当然、縦に78個、横に104個並べることで壁を埋め尽くすことができます。
さらに、78と104の最大公約数の長さを持つタイルは、壁を埋め尽くすタイルの数を最小にすることができます。
よって答えは
最小公倍数と素数ゼミ
素数ゼミ、またの名を周期ゼミとはアメリカに生息するセミの一種です。
13年、もしくは17年間を幼虫として地中で過ごし、それらの周期で一斉に成虫となって、大量発生します。日本の夏にジジジジ、、、と鳴いているアブラゼミは5~7年間を地中で過ごすので、素数ゼミはアブラゼミより2~3倍長生きです。
日本のセミは毎年現れますが、素数ゼミは13年、もしくは17年周期でしか地上に現れません。
日本のセミと違い、限られた周期でのみ地上に現れる理由は、外敵に食べられるリスクを下げるためです。
例えば、鳥やクモなどの外敵によって食べられるセミが毎年1万匹だとして、5年間毎年食べられると、5万匹食べられます。一方で5年周期でのみ地上に現れるのであれば、食べられる数は5年で1万匹のみであり、その分たくさん生き残り、子孫を残すことが可能になります。
そして特筆すべきは、大量発生の周期が「素数」であることです。ここに「最小公倍数」が関わってきます。
素数ゼミの大量発生の周期が素数になっているのは、一説には寄生虫から逃れるためです。
寄生虫は素数ゼミと同様に、3年周期や4年周期で発生するのですが、仮にセミの大量発生の周期が13年ではなく、12年だったとすると、「12と3」、及び、「12と4」はどちらも最小公倍数が「12」なので、セミの大量発生と寄生虫の発生の周期が常に重なり、セミが大量発生するたびに寄生虫の被害に遭います。
一方、13年であれば、「13と4」の最小公倍数は「52」なので、4年周期の寄生虫と周期が重なったら、次に重なるのは52年後となり、寄生虫の被害が少なくなります。
すなわち、素数ゼミの大量発生周期が「素数」となっているは「最小公倍数」の性質を巧みに用いたリスク低減戦略だったというわけです。
今回のまとめ
数学は深く学べば、色々なものと関わっていることが分かります。
高校では、これまで小学校、中学校で学んできた知識が結実し、色々なものとの繋がりを垣間見ることができます。繋がりが見えてくると単調な数学の勉強も多少は面白くなるかもしれません。
皆さんの高校数学が単調な受験勉強ではなく、発見と驚愕に満ち溢れることを願います。より早く最小公倍数と最大公約数の問題を解きたい人には「消去算―整数範囲:最小公倍数の計算が速く正確にできること (思考力算数練習張シリーズ 37)」がおすすめです。
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