みなさん、こんにちは。
今回のテーマは経済の自由です。薬事法距離制限規定違憲判決や森林法共有林分割制限規定違憲判決といった経済の自由に関する重要な判例を中心にわかりやすく解説しました。
最後には入試問題も用意しているので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・経済の自由とは
・経済の自由に関する重要判例
経済の自由とは
(経済の自由:オリジナル)
経済の自由とは、自由な経済活動を保障する権利です。
日本国憲法では経済の自由として、①居住・移転および職業選択の自由②財産権を保障しています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
居住・移転および職業選択の自由は憲法第22条1項で規定されています。
しかし職業選択の自由は絶対的に保障されるものではありません。無制限に職業活動を認めてしまうと、他人の人権が脅かされるおそれがあるからです。
さらに消費者や中小企業を保護するために積極的な制限が必要な場合もあるため、職業選択の自由は精神の自由よりも強く制約されます。
同様に強い制約を受けるのが第29条の財産権です。
第29条1項で「財産権は、これを侵してはならない。」としつつも、2項では財産権の内容が公共の福祉に基づいて法律で制限されると定めています。
また3項では、正当な補償のもとに私有財産を公共のために用いることができると規定していることもおさえておきましょう。
例えば道路の拡張や空港の建設などの公共事業を行う際には、正当な補償を条件に立ち退かなければならない場合もあるわけです。
経済の自由に関連する判例
(最高裁判所:wikiより)
経済の自由に関する判例として有名なのが、①薬事法距離制限規定違憲判決②森林法共有林分割制限規定違憲判決の2つです。
薬事法距離制限規定違憲判決
1963年の薬事法改正により、薬局開設についての距離制限は都道府県条例で定められることになりました。そこで広島県は既存の薬局からおおむね100mとの距離制限を定めます。
原告Xが薬局の営業申請をしたところ、県が定めた距離制限に反するとして却下されました。
不許可処分に対してXは営業の自由を侵害しているとして、処分の取り消しを求めて訴えを起こします。
1975年に最高裁は、薬事法の距離制限が憲法第22条1項に違反しており、無効であるとの判断を下しました。
森林法共有林分割制限規定違憲判決
兄弟であるXとYは父から山林を生前贈与され、それぞれ半分ずつ所有していました。
ところが、1965年に兄が弟の了解なしに山林内の木を伐採して売ったことから2人が対立します。
弟は兄に対して、山林の半分を分割するよう要求したものの、兄は森林法第186条の共有林分割制限規定を理由に拒否しました。
そこで弟は森林法第186条の規定が財産権を侵害するものとして兄を提訴します。
1987年に最高裁は、森林法第186条が憲法第29条に違反しており、無効であるとの判断を下しました。
なお森林法第186条は1987年に削除されています。
今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問1 下線部ⓓ(空き家)について、生徒Xは、国土交通省のWebページで「空家等対策推進に関する特別措置法」(以下、「空家法」という)の内容を調べ、次のメモを作成した。Xは生徒Yと、メモをみながら後の会話をしている。後の会話文中の空欄【ア】【イ】に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。
X:空家法によると、市町村長は、所有者に対し建築物を取り除くよう命令し、従わない場合は代わりに建築物を取り除くこともできるみたいだよ。
Y:そうなんだ。でも、市町村長が勝手に私人の所有する建築物を取り除いてしまってもよいのかな。
X:所有権といえども、絶対的なものとはいえないよ。日本国憲法第29条でも、財産権の内容は「【ア】」に適合するように法律で定められるものとされているね。空家法は所有権を尊重して、所有者に対し必要な措置をとるよう助言や指導、それから勧告をすることを原則としているし、建築物を取り除くよう命令できる場合を限定もしているよ。でも、空家法が定めているように、【イ】には、所有者は、建築物を取り除かれることになっても仕方ないんじゃないかな。
Y:所有権には所有物を適切に管理する責任が伴うということだね。
① ア 公共の福祉 イ 周辺住民の生命や身体に対する危険がある場合
② ア 公共の福祉 イ 周辺の景観を著しく損なっている場合
③ ア 公共の福祉 イ 土地の有効利用のための必要性がある場合
④ ア 公序良俗 イ 周辺住民の生命や身体に対する危険がある場合
⑤ ア 公序良俗 イ 周辺の景観を著しく損なっている場合
⑥ ア 公序良俗 イ 土地の有効利用のための必要性がある場合
(2022年 共通テスト 本試験 政治・経済 第1問 問4より)
問2 下線部ⓑ(個人が自由になる権利)に関連して、日本における自由権の保障をめぐる記述として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 最高裁判所は、三菱樹脂事件で、学生運動にかかわった経歴を隠したことを理由とする本採用の拒否を違憲と判断した。
② 日本国憲法が保障する経済活動の自由は、公共の福祉との関係で制約に服することはない。
③ 最高裁判所は、津地鎮祭訴訟で、公共施設を建設する際に行われた地鎮祭の費用を地方自治体が支出したことについて違憲と判断した。
④ 日本国憲法が保障する表現の自由は、他人の権利との関係で制約に服することがある。
(2020年 センター試験 本試験 現代社会 第1問 問7より)正解:② 参議院議員の被選挙権年齢は30歳で、衆議院議員の被選挙権年齢は25歳ですが、同規定に対して違憲判決は出ていません。
問3 下線部ⓑ(経済的自由権)に関連する記述として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 日本国憲法では、私有財産は、正当な補償をすることを条件に、公共のために用いられうることが明文で定められている。
② 日本国憲法では、奴隷的拘束や苦役からの自由は、経済的自由権と位置付けられている。
③ 日本国憲法では、職業選択の自由とともに、選択した職業を自由に営むことを保障する営業の自由が明文で定められている。
④ 日本国憲法が保障する自由権は、経済的自由権と精神的自由権の二つの種類に分けられる。
まとめ
今回は、経済の自由とは何か・経済の自由に関する重要判例について解説しました。
この記事を読んで経済の自由をマスターしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「精神の自由とは?重要判例とセットでわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第10回】」をご覧ください。
次回の記事「人身の自由とは何か?判例とセットでわかりやすく解説(入試問題も用意)【経済第12回】」をご覧ください。
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