こんにちは。今回も【世界史B】受験に役立つオリエント史シリーズをはじめます。今回は、イスラームの社会・経済・文化についてです。イスラーム文化や社会、経済については入試でも頻繁によく出る分野でして(いつも言ってる?)この範囲をしっかりと押さえることは受験に役に立ちます。
イスラーム文化経済史のポイントの一つは独特な用語の理解にあります。例えば、ウンマとは?ミスルとは?と難解なイスラム用語があります。正直、面倒ですが覚えてしまうと結構楽な分野でもあります。イスラーム社会で用いられた用語やムスリム商人の活動、イスラームが育んだ文化などについて整理します。
ちなみに、前回は「【世界史B】受験に役立つオリエント史 (イスラーム諸王朝の変化)第七回」について述べました。イスラム王朝も大事な分野なのでまだ読んでいない人は是非読んでください。
今回の記事のポイント・イスラーム用語はしっかりと理解しましょう
・ムスリム商人はイスラーム帝国の支配地で活発な交易活動を行った
・イスラーム文化は様々な文化が融合して成立。特にイラン文明からの影響が大きい
・『集史』と『世界史序説』は入試必出
・イブン=ルシュド、イブン=ハルドゥーン、イブン=バットゥータをしっかり区別しよう
イスラームの社会
(アズハル学院:wikiより)
イスラームの社会では、宗教上のトップであるカリフや政治権力者であるアミールやスルタンといった支配者層のほかにイスラーム法の専門家たちが強い影響力を持っていました。イスラーム法は我々日本人の価値観と異なっており、宗教が法律に入ってくるので違和感を感じますが勉強しておいた方がいい分野です。おすすめの書籍がこちら。
イスラーム世界の指導者をイマームといいます。イマームは信者の共同体であるウンマの指導者でした。イスラーム法のことをシャリーア、シャリーアの解釈を行う知識人のことをウラマーといいます。マドラサとよばれた学院でシャリーアの教育を受けたものがウラマーとなりました。
各地を支配したイスラーム勢力は重要地点にミスルとよばれる軍営都市を建設します。被支配者は支配者に地租であるハラージュを払いました。被支配者が異教徒の場合、ジズヤとよばれる人頭税を追加で支払い、自分たちの信仰を保証してもらいます。
専門用語を覚えているか黒い部分をドロップしてみましょう。答えが現れます。
イスラム教関係の覚えておきた専門用語ウンマ:共同体
ミスル:軍営都市
イマーム:イスラム世界の指導者
シャーリア:イスラム法
ウラマー:イスラム法を解釈する人
ジズヤ:人頭税
ハラージュ:地租
イスラームの経済
(キャラバン:wikiより)
ウマイヤ朝やアッバース朝の征服活動により、イスラーム帝国はイベリア半島から中央アジアまでの広大な地域を支配します。ムスリム(イスラーム教徒)商人たちは帝国内を活発に移動し交易を盛んに行いました。
アッバース朝以降、スーク・バザールとよばれる市場には政府が任命した監督官が常駐し商業活動の安全を保障します。商人たちはキャラバン(隊商)を編成し各地を移動しました。そのため、各地にキャラバンサライとよばれる隊商宿が整備されます。
さらに、ウマイヤ朝やアッバース朝の時代には高品質の金貨・銀貨が発行されたため、商業活動がさらに活発になります。
イスラーム文化の形成
(ムスタンスィリーヤ学院:wikiより)
イスラーム文明は様々な文化が混ざり合い融合して出来上がりました。中近東に紀元前から存在したオリエント文明を土台とし、アレクサンドロス大王がもたらしたギリシア文明、アケメネス朝以来のペルシア文明、東方から伝播したインドや中国の文明が混ざり合って出来上がります。文化とはいつも他のものと融合することでさらに発展するものですね。
これらの中で最も強い影響を与えたのがイランの文明でした。イランではアケメネス朝やササン朝など中央集権国家が栄えました。イスラームの諸王朝も中央集権を継承します。イラン人の官僚の活躍も目立ちます。
代表がセルジューク朝のニザーム=アルムルクでしょう。彼はスンナ派イスラーム教を復興させようとしてニザーミーヤ学院を創設して学問を奨励しました。アラビア文学を代表する『ルバイヤート』の作者として知られる詩人であり、ジャラーリー暦を編纂したオマル=ハイヤームを保護したことでも知られまています。
ルバイヤートは4行詩からなり、結構心に響く名言があります。一部紹介すると、
あしたのことは誰にだってわからない、
あしたのことを考えるのは憂鬱なだけ。
気がたしかならこの一瞬を無駄にするな、
二度とかえらぬ命、だがもうのこりは少ない
どうですか?カッコよくないですか?詳しく知りたい人はこちら。
また、ササン朝がギリシアから伝わった学問を研究・保持していたこともイスラーム文明を形成する上で重要な要素となります。
イスラーム文化の特徴は都市で発達した文明だということです。後ウマイヤ朝のコルドバ、ファーティマ朝のカイロ、アッバース朝のバグダードなどがイスラーム文明の中心地となります。
イスラーム固有の学問
(イブン=ハルドゥーン:wikiより)
イスラーム神学を大成させたのがニザーミーヤ学院の教授だったガザーリーです。ガザーリーはスンナ派の教えとそれまで異端とされていた神秘主義(スーフィズム)を融合させます。
イスラーム世界では歴史の研究も盛んでした。イル=ハン国の宰相となったラシード=ウッディーンは歴史書『集史』を編纂します。14世紀に現れたイブン=ハルドゥーンは『世界史序説』を著して定住民と遊牧民の交代を軸とする歴史観を確立します。
外来学問の研究
(イブン=バットゥータ:wikiより)
イスラーム世界では古代ギリシアの学問研究が盛んでした。10世紀末にブハラに生まれたイブン=シーナーはアラビア医学にギリシアやインドの知識を加えた『医学典範』を著します。この本はのちにヨーロッパに伝えられ、医学の教科書となりました。
イブン=シーナーはアリストテレスの哲学も学んでいました。彼の業績を引き継ぎ、アリストテレス哲学のアラビア語訳を行ったのがイブン=ルシュドです。イブン=ルシュドの研究はキリスト教世界のスコラ哲学に影響を与えます。
イスラーム世界では数学も発達します。ギリシアから受け継いだ幾何学やインド数字から考案されたアラビア数字など現代の数学に通じる要素がイスラーム世界でまとめられます。9世紀に活躍したフワーリズミーはゼロの概念を用い、代数学を確立します。
地理学の分野では『三大陸周遊記』を著したイブン=バットゥータが有名ですね。モロッコ出身のイブン=バットゥータはイスラーム勢力による征服で各地を比較的安全に移動することができました。彼は30年年間かけてイスラム、及び非イスラムの場所を旅して書物にまとめました。アラビア語が各地に広まっていたのも旅行がしやすかった理由ですね。
イスラム文学、建築、美術
(アルハンブラ宮殿:wikiより)
イスラーム世界を代表する文学といえば『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』でしょう。各地に伝わっていた説話を集大成して出来上がった物語集です。セルジューク朝時代の詩人であるオマル=ハイヤームは『四行詩集』で有名となります。
イスラーム建築の特徴は円屋根のドームと尖塔であるミナレットを組み合わせたモスクです。イスラーム美術としては幾何学模様であるアラベスクや細密画(ミニアチュール)が発達します。こうしたイスラーム文化の粋を集めてつくられたのがグラナダに今も残るアルハンブラ宮殿ですね。
イスラム文化のまとめ
ウマイヤ朝やアッバース朝による征服活動で急速に拡大したイスラーム世界では商業が発達しました。コルドバやカイロ、バグダードでは文化活動が盛んにおこなわれます。
学問研究も盛んに進められ、多くの成果を上げました。イスラームの分野で得点するためにはイスラーム用語をしっかり理解することが重要です。しっかりと復習をしておきましょう。
次回は「ティムール朝とサファヴィー朝」についてです。きちんと理解していきましょう。
前回の記事:【世界史B】受験に役立つオリエント史 (イスラーム諸王朝の変化)第七回
コメント