みなさん、こんにちは。物理基礎のコーナーです。今回は【浮力】について解説します。
浮力とは何かををちゃんと説明することは難しいです。そこで、この記事ではまず、水圧の考え方をもとに浮力の公式を導出し、浮力の求め方を解説します。その後、浮力の問題を解いていき、浮力についての理解を深めていきたいと思います。
浮力の理解には「水圧」や「気圧」の理解が不可欠です。そして「水圧」や「気圧」を「浮力」と同時に考え始めると単位がごちゃごちゃになったり、掛けるべき体積と面積を混同したりと、混乱します。浮力の理解のためには、単位を意識することも重要です。
浮力とは
浮力とは何なのかを解説したいと思います。が、浮力の理解のためには「水圧」や「気圧」の理解が不可欠です。「気圧」 → 「水圧」 → 「浮力」の順に解説していきます。
気圧とは
気圧とは、大気における気体の圧力のことをいいます。
いやいや、説明になってないから
最後まで話をきいてください。
我々は普段、大気中で暮らしています。「大気中」とは「様々な気体分子が飛び交う空間」を意味し、気体分子にも重さがありますので、上にある気体分子は下にある気体分子を下向きに押し付けます。
さらに上にある気体分子は下にある気体分子を下に押し付け、、、、と繰り返していくと、一番下の方の気体分子は上空に乗っている気体分子の分だけ「重さ」を感じることになります。さながら積み重なった布団に押しつぶされるように。
我々人間の頭上にも空気の重さはのしかかってきます。
上から見た頭部の面積を $S$とすると、頭部には底面積 $S$で、地上から宇宙空間までの高さを持つ空気の柱の重さがかかっています。
いくら空気が軽いといっても宇宙空間までの空気を集めて頭に乗せるとそれなりの重さになり、人間の頭にはおよそ空気 $200$ kg分の力が掛かっています。
嘘でしょ。そんな重さ感じたことないわ。
ではなぜ人間が空気の重さで潰れてしまわないかというと、長年に渡る地球生活で空気の重さに慣れているからです。
人間の全身は空気の圧力を相殺すべく、内側から外側に向かう力を常に発しています。そのため、空気の全く存在しない空間、宇宙空間などに突然移動したりすると、内側から外側に向かう力によって体の至る所に穴が空いてしまい、体中の空気がすべて抜けてしまいます。
「空気にのしかかられる力」は力を受ける面積に比例して増大します。計算が面倒なので、普段は空気から受ける力を圧力に変換して考えます。これが『気圧』です。気圧として考えるならば地上付近の物体が受ける気圧はほぼ同じです。
この「空気にのしかかられる力」は頭上に乗っている空気の分だけ大きくなるので、地上付近よりも高高度の方がのしかかられる空気が少なく、力は小さくなります。
気圧は圧力なので単位は $\rm{力} / \rm{面積}$です。高校物理では、力に $\rm{N}$ (ニュートン)、面積に $\rm{m}^2$ (平方メートル)を使って、$[\rm{N}] / [\rm{m}^2 ] = [Pa]$ (パスカル)という単位で気圧を表すことが多いです。
気圧の単位
$$[\rm{Pa}] =\left[ \frac{\rm{N}}{\rm{m}^2} \right]$$
さて、ここから少々ややこしいのですが、気圧によって物体に加わる力の向きは「上から下向き」だけではありません。「下から上向き」にも「横向き」にも加わります。
「上空の空気の柱にのしかかられる力」というイメージだけでは少々説明が難しくなってきたので、ちょっと気体分子の気持ちになって気圧を考えてみたいと思います。
気体分子は上空から他の分子にのっかられているので、少しでものっかられる分子の数が少ない (気圧の低い)ところへ移動しようとして、動き回ります。
そのとき、自分の横に気圧の低いところがあれば、そこを目指して移動し、道中にある余計なものは押しのけて進もうとします。
そうすると横向きに力が生じます。自分の上に気圧が低い場所があるならば上方向にある余計なものを押しのけつつ、上に向かいます。すると上向きに力が生じます。
気体分子は上下左右に移動できるので力を及ぼす方向に制限はないのです。
まとめると、「気圧によって生じる力」は「上空に存在する空気の重さ」と「力を受ける面積」に比例し、「全方向」に生じる力であると言えます。
水圧とは
次は水圧です。水圧も気圧と考え方はほとんど同じです。ただし、水は液体で、空気とは比べ物にならないほど重いので生じる圧力も凄まじいものになります。
皆さんは飛行機やエレベーターにのって上下した際、耳の鼓膜が痛くなることを経験したことはあるでしょうか?これは急激な気圧の変化によって、耳の内側からの圧力と耳の外側からの圧力のバランスが崩れるために起きる現象です。
気圧の場合は30 m程度の上下が無ければ変化を感じられませんが、水中では2 mほど潜っただけでも圧力の変化を感じます。初めて素潜りをした人は耳が痛くてびっくりすることでしょう。
深海 $4000$ mにおける水圧はおよそ $4.0 \times 10^7$ Pa。人間の表面積を $1.6$ m$^2$とすると、水圧によってかかる力は $6.5 \times 10^7$ N。これは東京タワーの重さの $1.5$ 倍に相当します。
いくら大気中で過酷な圧力に晒され、気圧に慣れているといえど、この圧力に人間は耐えられません。文字通り海の藻屑になってしまいます。
浮力
以上で浮力を考える準備は整いました。浮力について考えていきましょう。
一言で説明するならば、「浮力とは、流体 (空気や水)の圧力によって物体に加わる力の合力」のことです。
いやいや「なるほど」ってならないから。
以下では例を使って説明します。下の図をご覧ください。
図のように、底面積 $S$、高さ $h$ のプラスチック製円柱を水中にまっすぐ固定し、水圧によって生じる力を考えます。
まずは円柱の上底に加わる力から考えていきます。水圧によって生じる力の大きさは「上方にある水の重さ」と同じになります。
ここで、円柱の上底から水面までの距離 (深さ)を $H$とすると、「上方にある水の重さ」は「底面積 $S$、高さ $H$の水でできた円柱の重さ」となります。水の密度を $c$、重力加速度を $g$とし、鉛直上向きを正とすると、
\begin{eqnarray} \rm{(上底に加わる力)} &=& – \rm{(円柱の体積)} \times {(円柱の密度)} \times \rm{(重力加速度)} \\ &=& – SHcg \end{eqnarray}
となります。
次は円柱の側面に加わる力ですが、側面に加わる力はすべて足し合わせると打ち消しあってゼロとなるので、考えなくても問題ありません。
最後に下底に加わる力を考えます。下底は上底よりも深い場所にあるため水圧も大きくなります。下底に加わる力の大きさは「底面積 $S$、高さ $H+h$ の水でできた円柱の重さ」と同じで、下から上向きです。
\begin{eqnarray} \rm{(下底に加わる力)} &=& S(H+h)cg \end{eqnarray}
この3つの力の合力を考えます。とはいえ、側面に加わる力は考えなくてもよいので、鉛直方向の力のみ考えればよいです。
鉛直上向きを正として、上底に加わる力と下底に加わる力を足し合わせると、
\begin{eqnarray} \rm{(水圧によって生じる力の合力)} &=& -SHcg +S(H+h)cg \\ &=& Shcg \end{eqnarray}
となりました。これが「浮力」です。
浮力とは「上から下向きの水圧」と「下から上向きの水圧」の差によって生じる鉛直上向きの力なのです。
浮力は力なので単位は[$\rm{N}$]になります。
繰り返しになりますが、水圧や気圧の単位は[$\rm{N}/m^2$] $=$ [$\rm{Pa}$] です。別物ですので間違えないように注意しましょう。
浮力の公式
先ほど導出した、円柱に加わる浮力の式をもう一度見てみます。
\begin{eqnarray} \rm{(浮力)} = Shcg \end{eqnarray}
ここで $S$は円柱の底面積、$h$は円柱の高さなので、掛けると円柱の体積になります。円柱の体積を $V$として、上記式を書き換えると、
\begin{eqnarray} \rm{(浮力)} = Vcg \end{eqnarray}
となります。$c$は水の密度、$g$は重力加速度なので、$Vcg$は「円柱が押しのけた水の重さ」に相当します。
この「浮力の大きさ」=「物体が押しのけた水の重さ」という結果はどのような形状の物体においても成り立ち、「アルキメデスの原理」と呼ばれます。
アルキメデスの原理
$$\rm{(浮力の大きさ)} = \rm{(物体が押しのけた水の重さ)}$$
あらゆる形状の物体に成り立つのか?という点については疑問が残るところですが、ご安心ください、成り立ちます。
証明にはユークリッド座標系に適当な形状の物体を設定して、z軸方向に伸びる細長い柱で物体をくり抜き、その体積に加わる浮力を求めた後、x方向とy方向にそれぞれ積分をします。
高校の範囲ですが、少々難しいかもしれません。興味の湧いた方はやってみて下さい。
アルキメデスの原理を使えば物体に働く浮力の算出が非常に簡単になります。しかし、アルキメデスの原理だけを覚えていると、「浮力がなぜ生じるのか」、「なぜ『水の重さ』なのか」という点が抜け落ちてしまうことがあります。
浮力の導出方法を知っていれば、アルキメデスの原理を忘れてもすぐに思い出すことができますし、この分野の理解も深まります。公式を忘れたときには是非先ほどの円柱を考え、初めから導出してみてください。
余談ですが、「浮力」は「水中」だけで働くわけではありません。「大気中」や「水以外の液体の中」でも働きます。
浮力は「水」や「空気」などの「流体」と呼ばれるものの中にいる場合に必ず働きます。このページを「真空中」で見ている方以外には、皆さん全員に、今、「空気からの浮力」が働いているわけです。
ただしその浮力は非常に小さなものです。ちょっと計算してみます。
人間のほとんどは水でできていまして、密度は水とほぼ同じ、水より少し小さい程度です。水は $1$ L = $1$ kg なので人の密度もそのぐらいだと考えられます。
体重 $50$ kgの人がいれば、その人の体積はだいたい $50$ Lです。一方、空気の密度は$1.3 \times 10^{-3}$ kg/Lです。
よって、空気によって人間にかかる浮力は ($6.5 \times 10^{-2} \times g$) Nとなります。重力の大きさが ($50 \times g$) Nなので、重力の $1/1000$程度の力しか働かないことが分かります。
空気の浮力を使って体重を軽く見せようとするのはやめた方が良さそうですね。
浮力の問題と求め方
では最後に「氷山の一角」という慣用句を例にとり、問題を解きつつ、浮力についての理解を深めていきたいと思います。
例題海水の密度は $c_s = 1025$ kg/m$^3$ であり、氷になると密度は $c_i = 920$ kg/m$^3$ となる。氷山全体の体積に対する海中部分の体積の割合を有効数字2桁で求めよ。
氷山全体の体積を $V_t$、海中部分の体積を $V_u$、重力加速度を $g$とし、氷山に働く力について考えていきます。
今回氷山に働いている力は、「地球による重力」と「海水からの浮力」です。「空気からの浮力」は小さいので無視します。
まず重力です。重力は海上部分、海中部分の両方に働きます。重力の大きさ $F_g$は
\begin{eqnarray} F_g = V_t \times c_i \times g \end{eqnarray}
です。
次に浮力を求めます。浮力は海上部分には働かず、海中部分にのみ働きます。アルキメデスの原理から、浮力の大きさ $F_b$は「物体が押しのけた流体の重さ」なので、
\begin{eqnarray} F_b = V_u \times c_s \times g \end{eqnarray}
です。
氷山が浮かんでいて、空に昇ったり、沈んで行ったりしないということは、力がつり合っているということです。氷山に働く力はこの2力だけなので、この2力は大きさが同じになっているはずで、下記方程式が成立します。
\begin{eqnarray} V_t \times c_i \times g = V_u \times c_s \times g \end{eqnarray}
整理すると、
\begin{eqnarray} \frac{V_u}{V_t} &=& \frac{c_i}{c_s} \\ &=& \frac{920}{1025} \\ &\simeq& 0.90 \end{eqnarray}
となり、答えが得られました。海上に見えている部分は氷山全体の1割に過ぎないことが分かりました。
まとめ
今回の記事の内容のまとめです。しっかりと復習して理解していきましょう
- 流体圧 (気圧、水圧など)による力の大きさは、「上方にある流体の合計の重さ」
- 流体圧はあらゆる方向から加わる
- 浮力は「流体圧による力の合力」である
- 「物体が押しのけた流体の重さ」が「浮力の大きさ」となる
おすすめの物理の参考書として「大学入試 漆原晃の 物理基礎・物理[力学・熱力学編]が面白いほどわかる本」があります。こちらもよろしければ参考にしてみてください。
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