今回のテーマは、選挙制度です。この記事では以下の内容が学べます。
この記事からわかること
・選挙制度の4つの原則
・選挙制度の種類/それぞれのメリット・デメリット
・日本の選挙制度の仕組み
・日本の選挙制度の問題点
初学者にも理解できるよう、わかりやすく解説しました。
また記事の後半には、今回のテーマに関連した入試問題を用意しています。学習した内容の復習もできるので、最後まで読んでみてください。
選挙制度とは
(選挙:wikiより)
選挙制度は国民が国会議員を選び、民意を国政に反映させるうえで重要な仕組みです。
選挙制度には、下記の4つの原則があります。
- 普通選挙:原則としてすべての成年者に選挙権を与える
- 直接選挙:有権者が議員を直接選出する
- 秘密選挙:誰に投票したかを公表しない
- 平等選挙:一票の価値は平等でなければならない
選挙制度の種類は、
- 小選挙区制:1つの選挙区につき、1人の議員を選ぶ仕組み
- 比例代表制:各政党の得票数に比例して議席を配分する選挙方法
- 大選挙区制:1選挙区ごとに2人以上当選させる選挙制度
の3つです。
メリット | デメリット | |
小選挙区制 | ・二大政党制になりやすく、政局が安定する。 ・同じ政党の乱立候補を防止できる ・選挙区が狭いため、有権者が候補者のことを比較的把握しやすい | ・落選者に投じられる死票が多い ・少数派が議席を獲得できず、多様な民意が議会に反映されない ・与党に有利な選挙区割りがおこなわれやすい |
比例代表制 | ・死票が少ない ・多様な民意を反映できる | ・小党分立により政局が不安定になりやすい |
大選挙区制 | ・死票が少ない ・少数派も比較的議席を獲得しやすい ・多様な民意を議会に反映できる | ・小党分立になりやすく政局が不安定になる ・同じ政党の乱立候補を防止できない ・選挙区が広く選挙費用がかかる |
選挙制度の種類(オリジナル)
日本の選挙制度
(投票箱:wikiより)
日本での選挙は、衆議院・参議院で微妙にルールが異なります。
衆議院総選挙の流れ(オリジナル)
衆議院は4年の任期が満了したとき、もしくは衆議院が解散されたときに選挙がおこなわれます。被選挙権は25歳以上です。
衆議院の選挙制度には、小選挙区比例代表並立制と呼ばれる仕組みが採用されています。小選挙区から289人・比例代表区から176人が選出され、定数は465人です。
また衆議院の総選挙では、重複立候補が認められています。重複立候補とは、小選挙区と比例代表区の両方に立候補できることです。
重複立候補者は小選挙区で落選しても、比例代表区で当選できます。当選者は各政党の候補者名簿に記載された順位に従って決められます。
参議院総選挙の流れ(オリジナル)
参議院は3年ごとに半数ずつ改選されます。被選挙権は30歳以上です。
参議院の選挙制度では、選挙区制と非拘束名簿式比例代表制の両方が導入されています。各都道府県の選挙区から148人・比例代表区から100人が選出され、定数は248人です。
また参議院では、重複立候補が認められていません。
衆議院と参議院では、比例代表区での当選者の決め方が異なります。
衆議院では候補者名簿によって、政党があらかじめ立候補者の当選順位を決めています。衆議院で採用されている上記の方法が拘束名簿式です。
一方参議院では、候補者個人の得票数が多い順に当選者を決めます。衆議院が拘束名簿式なのに対して、参議院は非拘束名簿式です。
ちなみに各政党に議席を配分する方法は、衆・参ともにドント式を採用しています。ドント式とは、ベルギーのドントが考案した議席配分方法です。
ドント式による具体的な議席配分のやり方は以下のとおりです。
- 各政党の得票数を1・2・3…の整数で順番に割り算し、商を出す。
- 商の大きい順に定数いっぱいまで①・②・③…と番号をつけていく。
- 各政党にふられた番号の個数がその政党の獲得議席数となる。
例えば、A党が50万票・B党が40万票・C党が30万票を獲得したとしましょう。1・2・3…で順に割り算をした結果は、以下のとおりです。
A党 | B党 | C党 | |
各政党の得票数 | 50万票 | 40万票 | 30万票 |
÷1 | ① 50万 | ② 40万 | ③ 30万 |
÷2 | ④ 25万 | ⑤ 20万 | 15万 |
÷3 | ⑥ 16.666 …万 | 13.333 …万 | 10万 |
定数を6議席とすると、上記の計算結果からA党は3議席・B党は2議席・C党は1議席を獲得することになります。
日本の選挙制度の問題点
(候補者のポスター掲示板:wikiより)
日本の選挙制度の主な問題点としては、
- 一票の格差
- 選挙運動に対する厳しい制限
- 投票率の低下
があげられます。
一票の格差とは、都市部と人口の少ない地域で、一票の価値に差が生じている問題のことです。
以下の例をご覧ください。
- 人口の少ないX県1区から出馬したAさん→5万票で当選
- 都市部にあるY県2区から出馬したBさん→10万票を獲得したのに落選…
人口の少ない地域から出馬したAさんよりも、都市部から立候補したBさんのほうが多くの票を獲得していることがわかりますよね。
しかし当選したのはAさんのほうで、Bさんは落選しています。
つまり都市部に住む人が投じた一票のほうが、人口の少ない地域に住む人が投じた一票よりも価値が低くなっています。地域間で一票の価値に差が生じているわけです。
一票の格差が生じている状態は、平等選挙の原則に反します。
実際に最高裁は、1976年・1985年の2度にわたり、衆議院の総選挙について違憲判決を出しました。
一方参議院の総選挙については、合憲判決が相次いでいます。1996年・2012年・2014年には違憲状態との判決が下されましたが、違憲であると断定されてはいません。
また選挙運動に対する制限が厳しい点も、日本の選挙制度における課題の1つです。
制約の例としては、戸別訪問や選挙期間前の事前運動の禁止・文書配布の制限などがあります。
国民主権や表現の自由の観点から問題視する声が一部であがっているものの、最高裁は戸別訪問の禁止規定を合憲としています。
さらに若者の政治離れが進み、投票率の低下が深刻なのも深刻な問題です。
入試問題にチャレンジ
問1 下線部ⓑ(有権者)に関して、選挙制度と選挙原則に関する記述として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 小選挙区制とは、一つの選挙区から2名以上の議員を選出する制度である。
② 比例代表制とは、各政党が獲得した票数に応じて議席が配分される制度である。
③ 有権者が候補者を直接に選出できなければならないとする考え方は、平等選挙の原則である。
④ 有権者が投票の内容を他人に知られることなく投票できるとする考え方は、普通選挙の原則である。
問2
記録カードⅡ
【第2日目】選挙管理委員会の事務局を訪問・話合いに参加
市長選挙(市長選)および市議会議員選挙(市議選)の結果について説明を受けた。また、夏に行われる参議院議員選挙(参院選)について、啓発ポスターについての話合いに参加した。その際に、市長選や市議選と同じく個人名での投票ができるけれども当選者の決定方法が異なる、参院選の比例代表区の仕組みや各選挙区の定数、有権者人口の変遷などについて説明を受けた。
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■メモ・考察
・参院選比例代表区で用いられている非拘束名簿式の仕組みについて、以下の定数3の簡単な例を用いて整理すると、二つのことに気づいた。
問 【カ】~【ク】に当てはまる候補者の組合せとして最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① カ T候補 キ S候補 ク U候補
② カ T候補 キ U候補 ク S候補
③ カ U候補 キ S候補 ク T候補
④ カ U候補 キ S候補 ク W候補
⑤ カ W候補 キ U候補 ク S候補
⑥ カ W候補 キ U候補 ク T候補
①:小選挙区制とは、1つの選挙区から1人の議員を選出する選挙制度です。③:選択肢の文章は平等選挙ではなく、直接選挙の説明です。ちなみに平等選挙とは、一票の価値は平等でなければならないとする原則を指します。④:選択肢の文章は普通選挙ではなく、秘密選挙の説明です。普通選挙とは、原則としてすべての成年者に選挙権を与えることをいいます。
問2:③
記録カードⅡの「説明されたこと(1)」には、「政党名での得票と個人名での得票を合わせて各党の票数とし、…」と書かれています。よって各党の票数は、O党が10万+65万+5万=80万(票)、P党が20万+13万+8万=41万(票)、Q党が30万+5万+4万=39万(票)です。
「説明されたこと(1)」に書かれた内容を踏まえて、実際に計算した結果は以下の表(ア)をご覧ください。商の大きい順に、①・②・③と番号を振っています。
表(ア) | O党 | P党 | Q党 |
各党の票数 | 80万票 | 41万票 | 39万票 |
÷1 | ① 80万 | ② 41万 | 39万 |
÷2 | ③ 40万 | 20.5万 | 19.5万 |
÷3 | 26.666 …万 | 13.666 …万 | 13万 |
定数は3なので、O党に2議席・P党に1議席が割り振られます。よって当選者はO党のR候補・U候補(カ)、P党のS候補(キ)です。P党の当選者は、個人名での得票の多いS候補になるので注意しましょう。
続いて「説明されたこと(2)」の内容に沿って、計算をすると以下の表(イ)のようになります。
表(イ) | O党 | P党 | Q党 |
各党の票数 | 80万票 | 41万票 | 39万票 |
÷1 | ① 80万 | ② 41万 | ③ 39万 |
÷3 | 26.666 …万 | 13.666 …万 | 13万 |
÷5 | 16万 | 8.2万 | 7.8万 |
定数は3なので、O党・P党・Q党それぞれに1議席ずつが与えられます。当選者は個人名での得票が多い候補者なので、O党はR候補、P党はS候補(キ)、Q党はT候補(ク)になります。
ア:「国から自立した団体」に「十分な自治権が保障されなければならない」と書かれているので、「分権」が正解です。分権とは、「権」力を「分」けることを指します。権力を中央と地方に分け、1か所に集中させるのを防ぐのが団体自治のねらいです。
イ:空欄の直前に「地域社会の政治が住民の意思に基づいて行われなければならない」と書かれているので、「民主主義」が正解です。ちなみに自由主義とは、個人の自由な活動を尊重すべきとする思想のことです。ウ:空欄の直前には「国から地方公共団体への権限や財源の移譲」「国の地方公共団体に対する関与」とあるように、住民ではなく地方公共団体に関する内容が書かれています。よって「団体自治」が正解です
まとめ
今回は、選挙制度について学習しました。学習内容のおさらいです。
- 選挙の4原則とは、普通選挙・直接選挙・秘密選挙・平等選挙である。
- 選挙制度には、小選挙区制・比例代表制・大選挙区制の3種類がある。
- 日本では、衆議院の総選挙で小選挙区比例代表並立制が採用されている。また参議院の総選挙では、小選挙区制と非拘束名簿式比例代表制が併用されている。
- 日本の選挙制度の問題点は、一票の格差・選挙運動に対する強い制限・投票率の低下があげられる。
選挙制度の原則や種類、日本の選挙制度の仕組みは、この記事を繰り返し読んで完璧にマスターしておきましょう。
とくにドント式は入試でも頻出の分野なので、自分で解法を説明できるようになるまで反復してくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「政党政治とは?日本の政党政治の歴史や圧力団体との違いについてわかりやすく解説【政治第25回】」をご覧ください。
次回の記事「国際社会の成立過程と国際法の種類についてわかりやすく解説【政治第27回】」をご覧ください。
政治経済を理解するには「蔭山の共通テスト政治・経済」がおすすめです。政治経済の細かいところまで解説してくれるので、受験生はぜひとも一読をするとよいでしょう。
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