今回のテーマは、参政権・請求権及び請願権です。
参政権・請求権の種類や、重要判例について重点的に解説しました。
特に請求権の内容である請願権・裁判を受ける権利・国家賠償請求権・刑事補償請求権についてわかりやすく説明しました。また、関連する憲法判例も解説しています。
さらに、記事の後半には入試問題も用意しています。学習した内容を復習できるので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・参政権・請求権の種類
・請求権に関する重要判例(郵便法損害賠償制限規定違憲判決)
参政権とは
(選挙:wikiより)
参政権とは、国民が政治に参加できる権利のことです。
日本国憲法第15条1項では、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定められています。
また第15条3項では、成年者による普通選挙権を保障しました。
第93条では地方公共団体の長や、議員の選挙権・被選挙権を規定しています。
さらに直接民主制的な参政権として、最高裁判所裁判官の国民審査(第79条)・地方特別法の住民投票(第95条)・憲法改正の国民投票(第96条)の権利も定めています。
請求権とは
(投票箱:wikiより)
請求権とは、国に対して一定の積極的な行為を求める権利であり、人権を確保するための基本権です。
日本国憲法では請求権として、請願権・裁判を受ける権利・国家賠償請求権・刑事補償請求権の4つが保障されています。
請願権について
請願権とは、損害の救済や公務員の罷免、法律や条例の制定・改廃を国会や地方議会、行政機関に要望できる権利です。
憲法第16条で規定されています。
裁判を受ける権利
裁判を受ける権利は、誰でも裁判所に訴えて公開の裁判による救済を求められる権利です。第32条に明記されています。
これは、国家が個人の自由や権利を制約する場合、その正当性を裁判所が審査することを保障するものです。
つまり、国や公共の機関による権力の行使が適正であるかどうかを、裁判所がチェックする役割を持っています。
また、この権利は「裁判所の審査権」とも関連しています。
裁判所の審査権とは、行政の行為が法に適合しているかを裁判所が審査する権限のことを指します。
これは、行政の権力が適正に行使されているかを監視し、国民の権利を守るための重要な仕組みです。
日本の憲法判例においても、この裁判を受ける権利は重要な位置を占めています。
例えば、最高裁判所は「裁判を受ける権利」を「公正な裁判を受ける権利」と解釈し、公正な裁判を受けることが保障されるべきであるとの判断を示しています。
これにより、裁判の公正性や透明性が求められるようになりました。
国家賠償請求権
国家賠償請求権は、公務員の不法行為によって損害を受けた場合に、国や地方公共団体に対して損害賠償を請求できる権利です。第17条で規定されています。
これは、公務員の違法な行為によって被害を受けた市民が、その損害を補償してもらうための法的な手段です。
この権利は、日本国憲法の下で保障されており、具体的には国家賠償法によって規定されています。
国家賠償法は、公務員の違法な行為による損害について、国または地方公共団体が賠償責任を負うことを定めています。
日本の憲法判例においても、国家賠償請求権は重要な位置を占めています。
刑事補償請求権
刑事補償請求権とは、刑事事件で抑留・拘禁された人が無罪判決を受けた場合、国に対して刑事補償を請求できる権利です。
憲法第40条で明記されています。
具体的には、物理的な損害(身体的な傷害や物の損壊)や精神的な損害(精神的苦痛)、経済的な損害(治療費や収入の減少)など、犯罪によって生じた様々な損害を加害者に補償させることができます。
この権利は、被害者が自身の権利を守るための重要な手段であり、法律によって保障されています。
刑事補償請求権における1日あたりの補償金額は、最低1,000円から最高1万2,500円とされています。
この金額は、拘束の種類や期間、被害者が受けた財産上の損失、得るはずだった利益の喪失、精神的な苦痛、身体的な損傷、警察や検察、裁判の各機関の故意や過失の有無など、一切の事情を考慮して決定されます。
通常は上限の1万2,500円が支払われますが、具体的な状況により金額は変動します。なお、詳細な情報は[こちらのサイトで確認できます。
請求権に関する判例
請求権に関する判例として代表的なのが、郵便法損害賠償制限規定違憲判決です。
郵便法には、郵便物が紛失した場合の郵便事業者の賠償責任を制限する規定が存在していました。
2002年に最高裁は、国の損害賠償責任を免除・制限している郵便法第68条・第73条が国家賠償請求権を保障した憲法第17条に反するとして違憲判決を下しています。
具体的には、当時の郵便法は第68条で書留郵便物等を無くすか破損した場合、金をとらずに代金引換郵便物を渡した場合に限って国に損害賠償を請求することができると規定されおり、また、当時の郵便法第73条では賠償請求できるのは差出人とその承諾を受けた受取人に限定していました。
しかし、この規定は、郵便事業者の責任を過度に制限し、郵便利用者の権利を侵害するとして違憲と判断されました。
この判決により、郵便物が紛失した場合でも、その実際の損害額を郵便事業者に請求できるようになりました。これにより、郵便利用者の権利保護が強化され、郵便事業者の責任も明確化されました。
今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問1 下線部ⓑ(自由や権利)に関連して、日本国憲法が保障する基本的人権は、さまざまな観点から分類することができる。一つの分類のあり方について述べた次の文章中の空欄【ア】~【ウ】に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。
日本国憲法が保障する基本的人権には、さまざまなものがある。その中には、表現の自由や 【ア】のように、人の活動に対する国家の干渉を排除する権利である自由権がある。また、 【イ】や教育を受ける権利のように、人間に値する生活をすべての人に保障するための積極的な施策を国家に対して要求する権利である社会権がある。さらに、これらの基本的人権を現実のものとして確保するための権利として、裁判を受ける権利や【ウ】 をあげることができる。
① ア 生存権 イ 財産権 ウ 国家賠償請求権
② ア 生存権 イ 国家賠償請求権 ウ 財産権
③ ア 財産権 イ 生存権 ウ 国家賠償請求権
④ ア 財産権 イ 国家賠償請求権 ウ 生存権
⑤ ア 国家賠償請求権 イ 生存権 ウ 財産権
⑥ ア 国家賠償請求権 イ 財産権 ウ 生存権
問2 下線部ⓔ(憲法)で定められる基本的人権を、国民が国家に対して何を求めるかに応じて、次のA~Cの三つの類型に分けたとする。これらの類型と日本国憲法が定める基本的人権ア~ウとの組合せとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。
A 国家に対して、不当に干渉しないことを求める権利
B 国家に対して、一定の積極的な行為を求める権利
C 国家に対して、その意思形成への参画を求める権利
ア 選挙権
イ 国家賠償請求権
ウ 信教の自由
① A-ア B-イ C-ウ
② A-ア B-ウ C-イ
③ A-イ B-ア C-ウ
④ A-イ B-ウ C-ア
⑤ A-ウ B-ア C-イ
⑥ A-ウ B-イ C-ア
(2020年 センター試験 本試験 現代社会 第1問 問7より)正解:② 参議院議員の被選挙権年齢は30歳で、衆議院議員の被選挙権年齢は25歳ですが、同規定に対して違憲判決は出ていません。
問3 下線部ⓘ(政治参加)のための制度は、国民が直接に政治上の決定に携わる直接民主制の理念に基づくものと、国民が代表者を通じて政治上の決定に携わる間接民主制の理念に基づくものとの二つに分類できる。次のA~Cは、国民が政治上の決定に携わるような日本の制度である。これらのうち、直接民主制の理念に基づくものはどれか。最も適当なものを、下の①~⑦のうちから一つ選べ。
A 公職選挙法に基づく議員選挙
B 憲法改正のための国民投票
C 条例の制定や改廃を求める住民の請求権
① A ② B ③ C ④ AとB ⑤ AとC ⑥ BとC ⑦ AとBとC
まとめ
今回は、参政権・請求権を解説しました。
直接民主制的な参政権として取り上げた、最高裁判所裁判官の国民審査・地方特別法の住民投票・憲法改正の国民投票はしっかりおさえておきましょう。
請求権については請願権のほか、裁判を受ける権利・国家賠償請求権・刑事補償請求権があるので、一つひとつどんな権利なのか覚えておいてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「社会権とは?判例付きでわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第13回】」をご覧ください。
次回の記事「新しい人権(アクセス権・プライバシーの権利など)についてわかりやすく解説【政治第15回】」をご覧ください。
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