社会権とは?判例付きでわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第13回】

みなさん、こんにちは。

 

今回のテーマは、社会権です。社会権の種類や、社会権に関する重要判例である朝日訴訟・堀木訴訟についてわかりやすく解説しました。

 

また記事後半には入試問題も用意しています。学習した内容をおさらいできるので、ぜひ最後までお読みください。

この記事からわかること

・社会権とは何か・種類

・生存権(社会権)に関する2つの重要判例(朝日訴訟・堀木訴訟)

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社会権とは

(社会権:オリジナル)

社会権とは、人間らしい生活を保障するよう国に請求できる権利です。

 

日本国憲法では社会権として、①生存権教育を受ける権利勤労権労働三権の4つを保障しています。

 

①生存権

生存権は憲法第25条1項に規定されています。また2項では、国に対して社会保障政策を実施するよう義務づけました。

 

第25条の内容を実現させるための具体的な法律としては、生活保護法・健康保険法などがあります。

 

第25条:① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

②教育を受ける権利

第26条ではすべての国民に教育を受ける権利を保障すると同時に、義務教育の無償化を定めました。

 

第26条:① すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 

S先生
S先生
1947年に成立した教育基本法は憲法第26条の理念に基づいて制定された法律です。

 

③勤労権

勤労権とは、国家に対して労働の機会を与えるよう要求できる権利です。第27条に規定されています。

 

第27条:① すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
② 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
③ 児童は、これを酷使してはならない。

 

勤労権を実現するために、求職者に職業紹介を行う公共職業安定所(ハローワーク)が全国各地に設置されています。

 

④労働三権

労働三権とは、団結権団体交渉権団体行動権のことです。

 

団結権は労働組合を組織できる権利を指します。

 

団体交渉権とは、労働組合が使用者と労働条件などを交渉できる権利です。

 

団体行動権は労働者が待遇改善のためにストライキなどの団体行動を起こせる権利のことを表します。

 

労働三権は第28条で明記されており、第28条を反映した法律が労働基準法労働組合法労働関係調整法の労働三法です。

 

第28条:勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

 

生存権(社会権)に関する判例

(最高裁判所:wikiより)

社会権の1つである生存権については、重要な判例が2つあります。1つ目が朝日訴訟、2つ目は堀木訴訟です。

朝日訴訟

原告の朝日茂さんは重度の結核で入院していたものの、身寄りがなく、生活保護法に基づいて医療扶助と月600円の生活扶助を受けていました。

 

しかし音信不通だった実兄が見つかり、月額1,500円の仕送りをしてもらえることになります。

 

ところが社会福祉事務所は、仕送りのうち600円を日用品費として朝日さんに渡す一方、残りの900円は医療費の自己負担分として納入するよう求めました。

 

朝日さんは月600円の日用品費では安すぎるとして厚生大臣に不服申し立てを行ったものの却下されたため、処分取り消しを求めて訴えを起こしました。

 

裁判中に朝日さんが亡くなったため、最高裁は訴訟の終了を宣言しましたが、生活保護基準に関して次のような意見を述べています。

 

憲法第25条1項は、一人ひとりの国民に具体的な権利を保障するものではなく、国の努力目標・政策指針を宣言したにすぎない
生活保護基準の設定について、厚生大臣に大幅な裁量を認めた

 

特定の人権規定について、個々の国民に具体的権利を付与するものではなく、国家の努力目標を示したにすぎないとする考え方プログラム規定説といいます。

堀木訴訟

原告の堀木フミ子さんは目に障がいを抱えており、障害福祉年金で生活していました。

 

あるとき離婚した夫との間に生まれた子供を養うため、児童扶養手当の受給申請をしたところ、児童扶養手当法の併給禁止規定に該当するとして申請を却下されてしまいます。

 

堀木さんは併給禁止規定が憲法第25条に違反するとして訴えを起こしました。

 

最高裁は朝日訴訟同様にプログラム規定説の立場をとり、併給禁止を法律で定めるかどうかは国会の広い裁量に委ねられているとして原告の訴えを退けました。

 

今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。

入試問題にチャレンジ

問1 下線部ⓑ(国はどこまで人々の活動にかかわるべきなのかな)に関連して、日本における、国民生活と国の施策との関係をめぐる最高裁判所の判断についての次の記述アとイの正誤の組合せとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

ア 最高裁判所は、薬局開設の許可基準として距離制限を設けることは、合理的な規制とは認められず、違憲であると判断した。

イ 最高裁判所は、児童扶養手当と公的年金の併給を禁止する児童扶養手当法の規定は、国会の立法裁量の範囲を超え、違憲であると判断した。

① ア 正 イ 正

② ア 正 イ 誤

③ ア 誤 イ 正

④ ア 誤 イ 誤

2020年 センター試験 本試験 政治・経済 第2問 問2より)

問2 下線部ⓓ(生活)に関連して、日本の社会保障をめぐる最高裁判所の判決と社会保険に関する記述として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 朝日訴訟の最高裁判決では、生活保護基準の設定が、厚生大臣の裁量の範囲を超えているとされた。

② 現行の公的年金の財源調達と保険給付は、積立方式を基本的な仕組みとしている。

③ 雇用保険の保険料については、原則として、事業主が負担しないとされている。

④ 堀木訴訟の最高裁判決では、障害福祉年金と児童扶養手当の併給の可否について決めることは、国会の裁量の範囲内とされた。

2019年 センター試験 本試験 現代社会 第3問 問4より)

2020年 センター試験 本試験 現代社会 第1問 問7より)正解:② 参議院議員の被選挙権年齢は30歳で、衆議院議員の被選挙権年齢は25歳ですが、同規定に対して違憲判決は出ていません。

問3 下線部ⓒ(人権の性質)について、人権は、自由権、社会権、参政権などに分けることができる。社会権についての記述として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 不当に長く抑留された後の自白は、証拠とすることができない。

② 選挙権が国民固有の権利として保障されている。

③ 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が保障されている。

④ 思想および良心の自由は、侵害することができない。

2015年 センター試験 本試験 政治・経済 第3問 問4より)

問1:② ア:経済の自由に関する判例として代表的なのが薬事法距離制限規定違憲判決です。1975年に最高裁は、薬事法の距離制限が憲法第22条1項に違反しており、無効であるとの判断を下しています。経済の自由について詳しく学びたい方はこちらの記事「経済の自由とは?重要判例もわかりやすく解説(関連入試問題も)【政治第11回】」もあわせてご覧ください。イ:堀木訴訟の最高裁判決では、併給禁止を法律で定めるかどうかは国会の広い裁量に委ねられているとして、違憲ではないと判断されました。

 

問2:④ ①:朝日訴訟の最高裁判決では、生活保護基準の設定は厚生大臣の裁量に委ねられているとしています。よって設問の「厚生大臣の裁量の範囲を超えている」が誤りです。②:日本の年金制度には、主に賦課方式が採用されています。賦課方式とは、現役世代が納めた保険料から年金を給付する方式です。一方積立方式は、将来年金を受け取るときのために必要な資金を現役時代に自分で積み立てておく方式のことを指します。社会保障制度についてはこちらの記事「社会保障制度についてわかりやすく解説(入試問題つき)【経済第12回】」もチェックしてみてください。③:雇用保険の保険料は、本人・国・事業主が負担します。
問3:③ ①:人身の自由に関する記述なので、自由権に該当します。②:選挙権は参政権に属します。④:思想および良心の自由は、自由権にあたります。

 

まとめ

今回は、社会権について解説しました。

 

朝日訴訟・堀木訴訟の両方で登場したプログラム規定説の考え方をしっかりおさえておきましょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

前回の記事「人身の自由についてわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第12回】」をご覧ください。

人身の自由についてわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第12回】
今回のテーマは人身の自由です。 罪刑法定主義・遡及処罰の禁止・一事不再理・令状主義といった人身の自由に関する重要なキーワードをわかりやすく解説しました。 また記事の後半には入試問題も用意しています。学習した内容をおさらいできるので、ぜひ最後...

 

次回の記事「参政権・請求権についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第14回】」をご覧ください。

参政権や請求権についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第14回】
今回のテーマは、参政権・請求権及び請願権です。 参政権・請求権の種類や、重要判例について重点的に解説しました。 特に請求権の内容である請願権・裁判を受ける権利・国家賠償請求権・刑事補償請求権についてわかりやすく説明しました。また、関連する憲...

 

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