今回のテーマは、世界の政治体制です。
世界の政治体制は、大統領制・議院内閣制・半大統領制・権力集中制と大きく4つに分類されます。それぞれの政治制度の特徴・各国の政治機構について重点的に解説しました。
また記事の後半には、入試問題を用意しています。学習した内容を復習できるので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・大統領制・議院内閣制・半大統領制・権力集中制とはどんな政治制度なのか
・各国の政治機構
・大統領制と議院内閣制の違い
大統領制とは?仕組みとメリット
(ジョー・バイデン:wikiより)
大統領制とは
大統領制とは、大統領と国会議員が国民の選挙で選ばれる仕組みです。
画像(三権分立の図:オリジナル)
本来権力は、立法権・行政権・司法権の3つに分かれています。
法律を制定する権限が立法権、法に従って政治を進める権限が行政権、裁判を通じて判決を下す権力が司法権です。大統領は、立法・行政・司法の三権のうち、行政権のトップにあたります。
行政を担う大統領と、立法を担当する議会の議員を国民が選ぶ政治制度こそ大統領制なのです。
大統領制では、大統領に強い権限が与えられます。立法・行政・司法の三権が厳格に分立していて、大統領が議会に対して責任を負わないのが特徴です。
大統領制のメリットは、大統領を国民投票で選出できるため、民意を反映させやすい点にあります。
また大統領は法律を犯さない限り、任期中に辞任させられることがないので、じっくり政治に取り組める点も長所です。
一方で、大統領の支持政党と議会の多数派が必ずしも一致しないため、大統領と議会が対立する可能性があります。
アメリカの政治体制
大統領制を採用している国で代表的なのがアメリカです。アメリカでは、立法・行政・司法が明確に分離しています。
画像(アメリカの政治体制:オリジナル)
大統領は国民による間接選挙で選ばれ、議会ではなく国民に対して責任を負います。
大統領の任期は4年で3選は禁止されています。議員との兼職も不可能です。議会に不信任決議権がない代わりに、大統領には議会の解散権がありません。
しかし大統領には、立法や予算の審議を勧告できる教書送付権や、議会が可決した法律案への署名を拒否して議会へ送り返せる拒否権が与えられています。
ただし議会にて3分の2以上の多数で再議決されれば、法律として成立するので注意してください。
アメリカは共和党と民主党の二大政党制で、44代大統領は民主党のオバマでした(2009~17)。のちに45代大統領には共和党のトランプが就任し(2017~21)、46代大統領の座には民主党のバイデンが就いています(2021~)。
議会は上院と下院の二院制です。上院は各州2名ずつ、下院は小選挙区制で選出されます。任期は上院が6年で下院が2年です。いずれも国民による直接選挙で選ばれます。
上院は大統領に対して、条約締結の同意権・高級公務員や裁判官の任命に対する同意権・大統領弾劾権を持っている点もおさえておきましょう。
また裁判所には、法律が憲法に反するかを審査する違憲審査権が与えられ、立法・行政に対する司法権の優位が制度化されました。
議院内閣制とは?大統領制との違い
(ボリス・ジョンソン:wikiより)
議院内閣制とは
議院内閣制とは、内閣が議会の信任によって成立する政治制度です。
議会と内閣は協力関係にあり、内閣は議会に対して連帯して責任を負います。ゆえに議会が内閣に対して不信任決議を出せば、内閣は総辞職するか、議会を解散しなければなりません。
内閣不信任決議権と解散権があるからこそ、議会(立法)と内閣(行政)は互いに均衡と抑制を図れているのです。
大統領制と議院内閣制の決定的な違いは、国のトップを決める方法です。大統領制では国民による選挙で大統領を選ぶのに対して、議院内閣制では選挙で選ばれた国会議員から首相が選出されます。
首相は国民が直接選挙で選ぶわけではありません。議員のなかでも議会で多数派を占める政党の代表が首相に就任します。
大統領はよほどのことがない限り、辞任させられることはないのに対して、首相は最悪の場合解任できるのも違いの1つです。
議院内閣制のメリットとしては、政治運営を円滑に進められる点が挙げられます。与党内で支持を受けた人が首相に選ばれるため、意見が通りやすくなるからです。
過激な政策が行われるリスクが少ないのも利点といえるでしょう。
大統領制と議院内閣制の違いを表にまとめているので、日々の学習にお役立てください。
(大統領制と議院内閣制の違い:オリジナル)
イギリスの政治体制
議院内閣制を採用している典型的な国の1つがイギリスです。
(イギリスの政治体制:オリジナル)
議会は下院と上院で構成されています。下院議員は国民による直接選挙で選出され、任期は5年です。解散はあるものの、予算の議決などでは下院が優越します。
上院議員は国民の選挙で選ばれるわけではありません。終身の貴族・聖職者からなり、首相の助言に基づいて国王が任命します。
イギリスには国王がいるものの、「国王は君臨すれども統治せず」の原則により、実質的な行政権は首相が率いる内閣が持っています。おさえておきましょう。
内閣は与党によって構成され、原則第一党の党首が首相となります。予算作成権や法案提出権を有する一方、法案拒否権は認められていません。
イギリスはもともと保守党と労働党の二大政党制でした。しかし近年は自由民主党が台頭しており、2010年には保守党と自由民主党により戦後初の連立政権が発足しました。また政権をとれなかった政党は影の内閣を組織し、次の政権交代に備えるのも特徴です。
イギリスは成文の憲法典がない不文憲法の国です。代わりにマグナ・カルタをはじめとする歴史的文書・慣習法・判例法が憲法の役割を果たしています。
ゆえに裁判所には違憲審査制がないのが特色です。
ドイツの政治体制
ドイツは実質的には議院内閣制を採用している国といえます。
画像(ドイツの政治体制:オリジナル)
首相だけではなく大統領もいますが、あくまでも象徴的な存在にすぎず、権限は弱いです。
一方首相には、閣僚の任免権など強力な権限が与えられています。首相は下院で選出され、任期は4年です。
議会は上院と下院の二院制で、下院議員のみ国民の直接選挙で選ばれます。下院は内閣不信任決議権、内閣は下院の解散権を有するほか、裁判所には違憲審査権が与えられているので覚えておきましょう。
半大統領制とは?フランスの政治制度を紹介
(エマニュエル・マクロン:wikiより)
半大統領制とは
半大統領制とは、議院内閣制と大統領制の両方を取り入れた混合型の政治制度です。半大統領制にはさまざまな形態がありますが、今回はフランスの政治体制をピックアップして解説します。
フランスの政治体制
ドイツとは対照的に、フランスでは大統領に国民投票施行権・軍隊の統帥権・首相や大臣の任免権・下院の解散権といった強い権限が与えられています。
画像(フランスの政治体制:オリジナル)
大統領は国民の直接選挙で選ばれ、任期は5年です。内閣は首相と大臣で構成され、全員が大統領によって任免されます。
議会は上院・下院の二院制です。下院議員のみ国民の直接選挙で選ばれます。下院は内閣不信任決議権を持っているので、議院内閣制の要素も少し含んでいるといえるでしょう。
権力集中制のメカニズム
(習近平:wikiより)
権力集中制とは
三権分立と対極にある政治体制が権力集中制です。権力集中制では、社会主義政党へ権力を集中させ、党が決めたことを立法・行政・司法に指導していきます。
中国の政治体制
権力集中制を採用している国で代表的なのが中国です。
(中国の政治体制:オリジナル)
中国の最高権力機関は、日本の国会にあたる全国人民代表大会で全人代とも呼ばれます。議員の任期は5年で解散はありません。
一院制の全人代は毎年1回開かれ、憲法改正や法律の制定が行われます。国家主席や首相を選ぶ権限を持っているのも特徴です。
全人代の下に行政を担う国務院・司法を行う最高人民法院があり、全人代の常設機関として設置されている乗務員会が国務院・最高人民法院の監督を行っています。
今回の範囲はここまでです。最後に入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問 下線部ⓒ(政治権力について権力分立が憲法で定められている)に関連して、アメリカとイギリスの政治制度について述べた次の文章中の空欄【ア】~【ウ】に当てはまる語句の組合せとして正しいものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。
アメリカでは、大統領は連邦議会の議員の選挙とは別に公選され、議会に議席をもたない。大統領は、議会が可決した法案に対する拒否権と議会への【ア】権とをもつが、議会の解散権をもたない。
これに対しイギリスでは、下院(庶民院)の多数派から首相が任命されて内閣を組織する。内閣は法案を提出することができ、通常は与党議員である大臣が議会で説明や答弁を行う。また伝統的に、下院は内閣に対する【イ】権をもち、これに対抗して内閣は下院を解散することができるとされてきた。
こうしてみると、アメリカでは、イギリスよりも立法府と行政府との間の権力分立が【ウ】である。
① ア 教書送付 イ 弾劾 ウ 厳格
② ア 教書送付 イ 弾劾 ウ 緩やか
③ ア 教書送付 イ 不信任決議 ウ 厳格
④ ア 教書送付 イ 不信任決議 ウ 緩やか
⑤ ア 法案提出 イ 弾劾 ウ 厳格
⑥ ア 法案提出 イ 弾劾 ウ 緩やか
⑦ ア 法案提出 イ 不信任決議 ウ 厳格
⑧ ア 法案提出 イ 不信任決議 ウ 緩やか
正解:⑧ ア:「すべての者に人間たるに値する生活を保障する」という記述から、ワイマール憲法だとわかります。イ:「圧制への抵抗」というキーワードが登場するので、フランス人権宣言のことだと判明します。この時点で⑧が正解だと判断できます。ウ:アメリカ独立宣言であれば、「すべての人は平等に造られ」「創造主によって一定の譲ることのできない権利(天賦の権利)」などがキーワードになりますが、そうした言葉は登場しないので、イギリスの権利章典が正解だとわかります。
まとめ
今回は、世界の政治体制を解説しました。
大統領制と議院内閣制の主な違いは、国のトップを決める方法・任期中の解任の有無です。各国の政治機構とセットでしっかりマスターしておきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「人権保障の歴史についてわかりやすく解説(入試問題つき)【政治第4回】」をご覧ください。
次回の記事「日本国憲法の成立過程と特徴についてわかりやすく解説【政治第6回】」をご覧ください。
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