今回は拒絶反応についてお話しします。他人の臓器を移植したときに、他人の臓器を攻撃する拒絶反応が起こることがあります。
拒絶反応はなぜ起こるのかを解説します。
拒絶反応に関しては、考察問題が入試で出題されることがあります。しかも応用問題もあり難易度は高めです。
今回の記事の最後に演習問題がついているので、是非最後まで目を通してから問題を解いて見てください。
細胞性免疫
獲得免疫には、体液性免疫と細胞性免疫があります。
拒絶反応に関わるのは、細胞性免疫の方です。
細胞性免疫では、まず抗原提示を受けたヘルパーT細胞が働きます。ヘルパーT細胞は、キラーT細胞の増殖を促進させます。
増殖したキラーT細胞は、ウイルスなどに感染した細胞を直接攻撃して破壊します。
体液性免疫が飛び道具による攻撃だとすると、細胞性免疫は刀による攻撃のようなものです。
拒絶反応
細胞性免疫で働くキラーT細胞は、感染した細胞以外も反応します。
キラーT細胞は、癌細胞や移植臓器なども攻撃します。
皮膚移植の拒絶反応
系統の異なるマウスの皮膚を移植すると、移植片は一時的に癒着するがやがて脱落します。
これは、キラーT細胞などの攻撃によるものです。
同系統の移植片を再び移植すると、二次応答で早く脱落します。
入試問題にチャレンジ
問題
免疫に関する実験を行い、次のような結果を得た。
〔実験1〕 W系統のマウスにW系統のマウスの皮膚を移植したところ、その皮膚は生着したが、W系統のマウスにN 系統のマウスの皮膚を移植したところ、拒絶反応を起こした。
〔実験2〕 W系統のヌードマウスにN 系統のマウスの皮膚を移植したところ、拒絶反応を起こさなかった。なお、ヌードマウスとは、遺伝子の変化によって生じた無毛のマウスである。このマウスは正常なB 細胞をもつが胸腺を欠失している。
〔実験3〕 W系統のヌードマウスにW系統のマウスの胸腺を移植した。その後、N 系統のマウスの皮膚を移植したところ、拒絶反応を起こした。この拒絶反応を示したマウスには、W系統のヌードマウスに由来する成熟したT 細胞が多く存在した。
〔実験4〕 W系統のヌードマウスに放射線を照射し、別のW系統のマウスの胸腺を移植した。その後、N 系統のマウスの皮膚を移植したところ、その皮膚は生着した。なお、マウスに放射線を照射すると、リンパ節や骨髄に存在するリンパ球を殺すことができる。
〔リードα 10 同志社大 改〕
(1) 実験1 において移植された組織片の拒絶にかかわった免疫機構の名称を答えよ。
(解説)拒絶反応に関わるのは、細胞性免疫です。キラーT細胞が、自分でない細胞を攻撃します。
(2) 実験1 2 から判断して、移植された組織片に対して拒絶反応を起こした細胞の名称を答えよ。
実験1の結果をまとめると
・W系統のマウスにW系統のマウスの皮膚を移植→生着
・W系統のマウスにN 系統のマウスの皮膚を移植→拒絶反応
実験2の結果は、
・W系統のヌードマウスにN 系統のマウスの皮膚を移植→生着
実験2で使ったマウスは正常なB 細胞をもつが胸腺を欠失しています。つまり、胸腺から作られるT細胞が免疫に関わっていると推測できます。
(3) 実験3 から判断すると、W系統のヌードマウスはB 細胞やT 細胞をもっているにもかかわらず、実験2 では拒絶反応を起こさなかったことになる。その理由を25字以内で説明せよ。
(解説)実験3の結果は、
・W系統のヌードマウスにW系統のマウスの胸腺を移植
→N 系統のマウスの皮膚を移植
→拒絶反応
実験2と何が違うかというと、胸腺を移植したかどうかです。胸腺があると、T細胞が成熟して細胞性免疫が働きます。そして、細胞性免疫によって拒絶反応が起こります。
(4) 胸腺について、実験結果(2)(3)(4) から導き出せることを40 字以内で説明せよ。
(解説)T細胞は、胸腺(thymus)で成熟するのでT細胞と呼ばれます。リンパ球は、造血幹細胞から分化し、血液に出されます。
それが胸腺という大学のような器官に行って教育を受け、専門的な能力をつけて卒業し、仕事につくのです。胸腺という器官を通して、未熟なT細胞が成熟したT細胞に変化することができます。
胸腺では、入学したT細胞のうち自分の成分に反応するものは排除され、残った細胞のみが成熟したT細胞になれます。
まとめ
いかがだったでしょうか?今回のポイントは以下のとおりです。
- 拒絶反応に関わるのは、細胞性免疫
- キラーT細胞は、癌細胞や移植臓器なども攻撃する。
- 胸腺は未熟な T 細胞を成熟した T 細胞へと分化させるはたらきをもつ器官
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コメント
この問題では「拒絶反応に関わるのは、細胞性免疫の方です」と断定していますが。体液性免疫が関与している可能性は排除できるのでしょうか。
たとえば、以下のページの解説では「皮膚移植片を拒絶した宿主の体内にドナーに対する抗体ができていることを示した実験」が紹介されています。
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n1997dir/n2233dir/n2233_02.htm
コメントありがとうございます。また、Medawarの実験のページもありがとうございます。
確かに表現として「可能性は排除できるか」という点について、細胞性免疫が主役であるとは思うのですが、表現として適切でないかもしれません。