今回は、労働問題について取り上げます。
労働運動の歴史、労働三法それぞれの役割、近年日本で発生している非正規雇用や外国人労働者などをめぐる問題など、幅広い内容を解説しました。
最後には入試問題も用意しているので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・労働問題とは何か
・労働運動はどこから始まったか
・労働三法それぞれの役割・目的
・日本で今日浮き彫りになっている労働問題
労働問題の歴史
(ラッダイト運動:wikiより)
労働問題とは、労働時間や賃金などの労働条件をめぐる使用者と労働者の摩擦や紛争のことです。
本来、使用者と労働者は自由・対等な立場で労働契約を結びますが、労働者は使用者に雇われて賃金を得て生活しているため、実際には力関係に差があります。
そのため、労働者は使用者から一方的に不利な労働条件を押しつけられることが多々ありました。
そこで、労働者が自主的に団結して、労働条件の改善を目指す労働運動が行われるようになります。
労働運動の始まりは、イギリスです。19世紀初めにラッダイト運動と呼ばれる機械打ち壊し運動があったのち、労働組合が結成されました。
各国政府は、当初労働運動に対して弾圧政策をとっていたものの、徐々に容認、そして保護へと動き出していきます。
国際的には、1919年に国際労働機関(ILO)が設立されました。
日本の労働問題
(ストライキ:wikiより)
労働三法とは
戦前の日本でも、労働運動が行われていたものの、治安警察法(1900)や治安維持法(1925)により、厳しい弾圧を受けました。
労働運動をはじめ、労働者の権利が本格的に認められるようになったのは戦後のことです。1946年公布の日本国憲法で、労働基本権が保障されます。
労働基本権とは、勤労権・団結権・団体交渉権・団体行動権のことです。
なかでも、団結権・団体交渉権・団体行動権の3つは労働三権と呼ばれます。
そして、労働基本権を確保するため、労働組合法・労働関係調整法・労働基準法の労働三法が制定されました。
労働組合法は、労働三権を具体的に保障した法律です。1945年に制定されました。
同法では、労働者が自主的に労働組合を結成して団体交渉を行い、労働条件を取り決めた労働協約を結び、その目的を達成するためにストライキなどの争議行為を行うことを認めています。
正当な組合活動であれば、刑事上・民事上の責任を問われることはありません。
また、使用者による組合活動への妨害行為を不当労働行為として禁止しています。
戦後、労働組合が行う労働運動として代表的なのが春闘です。毎年春に労働組合が産業ごとに賃上げなどの交渉を行っており、賃金アップに大きく貢献しています。
労働関係調整法は、労働争議の公正な調整・予防・解決を図るための方法について規定した法律です。1946年に制定されました。
争議解決のための具体的な方法としては、斡旋・調停・仲裁があります。
斡旋は、労働委員会によって選ばれた斡旋員が当事者間の争議の解決を援助することです。
調停とは、労働委員会の設けた調停委員会が調停案を示して、労使双方に受諾の勧告をすることを指します。
仲裁は、労働委員会が労働争議の解決を図るため、強制力のある仲裁裁定を下す方法です。
また、争議行為が電力・ガスといった公益事業に関する場合などには、内閣総理大臣が緊急調整を行い、争議行為を50日間禁止できます。
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めている法律です。監督官庁として労働基準局・労働基準監督署が設けられています。労働基準法で定められている主な労働条件は以下のとおりです。
今日の労働問題
バブル崩壊後、企業ではリストラによる人員整理が進められるようになり、正社員に代わってパートタイマー・派遣社員・契約社員などの非正規労働者が増加します。
そこで1993年にはパート労働者の雇用条件の改善を図ろうと、パートタイム労働法が制定されました。
しかし、リーマンショックにともなう不況により、派遣労働者の雇い止めが続出するなど、非正規労働者の雇用不安が問題となっています。
また、戦後の日本企業で定着していた終身雇用制・年功序列型賃金体系を維持できない企業が増え、職務給や能力給などの成果主義的な賃金制度の導入が進められるようになりました。
近年では、女性の労働者が増加した一方、非正規雇用の割合が高いのが課題として浮き彫りになっています。政府は対策として育児・介護休業法や男女雇用機会均等法を制定・改正し、女性の社会進出や男女平等への対応を進めました。
さらに、進学・就職をせず、職業訓練も受けていないニートと呼ばれる人が増加しており、2020年で87万人を数えるなど、大きな社会問題になっています。
外国人労働者の就労が増加したことによる低賃金・不法就労などの問題も表面化しており、課題が多く残されているのが現状です。
今回の範囲はここまでとなります。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問 生徒たちは、日本の雇用環境とその変化について調べることにした。次の文章中の空欄【ア】【イ】に当てはまる語句の組合せとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。
終身雇用、【ア】、および企業別労働組合は、日本における労使慣行の特徴とされ、日本的経営とも呼ばれてきた。しかし、経済環境の変化に伴って終身雇用や【ア】に代わって異なる雇用や賃金の形態が広がり、多様化している。
また、現在では労働者の働き方も多様化している。たとえば、業務遂行の方法や時間配分の決定などを労働者自身に委ねる必要があるため、実際の労働時間に関係なく一定時間働いたとみなす【イ】を導入する企業もある。
① ア 年功序列型の賃金 イ フレックスタイム制
② ア 年功序列型の賃金 イ 裁量労働制
③ ア 成果主義による賃金 イ フレックスタイム制
④ ア 成果主義による賃金 イ 裁量労働制
まとめ
今回は、労働問題を解説しました。
この記事を読んで、労働運動の歴史や労働三法それぞれの役割、近年日本で発生している労働問題についてしっかり理解していただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「消費者問題についてわかりやすく解説(入試問題も用意)【経済第10回】」ですのでよければ読んでください。
次回の記事「社会保障についてわかりやすく解説(入試問題つき)【経済第12回】」をご覧ください。
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