みなさん、こんにちは。数学IAのコーナーです。今回は【多項式の加法と減法】についてです。
多項式の計算は高校に入ってすぐに習う分野で、中学の復習を兼ねています。多項式の計算に慣れておくと、高校で複雑化する計算をより早く、正確に実行できるようになり、数学を勉強する効率が向上します。
センター試験でも大問1の最初の方に必ず出題され、絶対に点を取りたい部分です。逆に言うと、ここでミスをしてしまうと、他より大きく後れを取ることになります。
多項式の加法・減法・乗法はこのあとすぐに習う因数分解に繋がってきますし、ここで習う分配法則や結合法則は、高校2年で習う「ベクトル」や「積分」などで真価を発揮します。
多項式計算がまだ苦手という人は、しっかりと理解して苦手を克服できるように、ある程度できる人はもっと早く、正確に解けるように、練習していきましょう。
多項式の計算に用いる用語
まずは新しく習う高校数学用語を1つずつ抑えていこうと思います。それぞれの意味を例を交えつつ解説します。
単項式、多項式
まずは単項式と多項式についてです。単項式とは、数や文字だけの積の形で表された式のことです。以下のような式はすべて単項式です。
$$10,\; x^{2},\; 2ab,\; \sqrt{2},\; \frac{3c}{4},\; x^{a+b},\; (x-1)(x+1)(x^{2}+1)$$
また、多項式は単項式の和として表される式のことで、以下の式はすべて多項式です。
$$99+1,\; 10+\sqrt{3},\; \frac{\sqrt{2}}{5}+3ab^{2},\; 5x^2 +3x +1$$
$99+1$は多項式ですが、計算すれば$100$になりますので、$100$と書けば単項式になります。
変数、係数、次数、定数項
単項式は、変数と係数に分けることができます。
$3x^2$という単項式を見ると、変数は$x^2$、係数は$3$となります。
また、$4ax^3$という単項式の場合、「どの文字に着目するのか」によって、変数と係数が変化します。
$a$を変数とするならば、$4x^3$が係数となり、$x^3$を変数とするならば$4a$が係数となります。
変数が掛け合わされている数、すなわち「変数が何乗されているのか」を表す数を次数と言います。変数が$x$の単項式は次数が$1$、変数が$x^2$の単項式は次数が$2$です。
また、$5$などの文字を含まない単項式は$5 \times x^0$と見なすことができ、次数は$0$であると考えます。このように次数が$0$である単項式を定数項と呼びます。
次数が$0$の単項式と次数が$1$の単項式の和 ($ax+b$)で表される多項式を1次式、次数が$0$、$1$、$2$の単項式の和 ($ax^2 +bx +c$)で表される多項式を2次式と呼びます。1次式、2次式という言葉は中学校で習った内容ですが、その正確な意味はこの単元で初めて習うことです。
多項式の計算における基本法則
次に、多項式の計算をするための重要な計算法則を説明していきます。
交換法則、結合法則、分配法則
その1. 交換法則です。交換法則とは「計算の順序を入れ替えても結果が変わらない」という法則です。
「$1+2$」という計算の結果は「$2+1$」という計算の結果と同じになり、「$1 \times 2$」という計算の結果は「$2 \times 1$」という計算の結果と同じになります。
何を今さらそんな当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、これがどう重要なのかは後で説明します。
その2. 結合法則です。これは「括弧の位置を変えても計算の結果は変わらない」という法則です。
「$(1+2)+3$」という計算の結果と「$1+(2+3)$」という計算の結果は同じであり、「$(1 \times 2) \times 3$」という計算の結果と「$1 \times (2 \times 3)$」という計算の結果は同じになります。
その3. 分配法則です。分配法則を言葉で説明すると理解が大変ですので、以下の式をご覧ください。
$$2 \times (3+4)= 2 \times 3 + 2 \times 4$$
これが分配法則です。これ以上でも以下でもないですね。
以上の法則を一般化してまとめたものを以下に示します。
1. 交換法則
$A+B=B+A , \; A \times B=B \times A$
2. 結合法則
$(A+B)+C=A+(B+C) , \; (A \times B) \times C=A \times (B \times C)$
3. 分配法則
$A\times (B+C)=A \times B +A \times C , \; (A+B) \times C = A \times C + B \times C $
各法則の使い方
上記3つの法則を上手く使うことで多項式の計算を簡単にすることができ、暗算のスピードが飛躍的に向上します。以下の例題を3つの法則を意識しつつ解いてみたいと思います。
例題 1以下の値を求めよ。
(1) $1+2+3+ \cdots +97 +98 +99$
(2) $0.02 \times 500$
(3) $99 \times 101$
(1) で重要になるのは、交換法則です。すべて足し算でできている式なので、足し算の順番を自由に変えて計算できます。そこで、次のように式の順番を変えます。
\begin{eqnarray} 1+2+3+ \cdots +97 +98 +99 &=& (1+99)+(2+98)+(3+97)+ \cdots +(49+51)+50 \\ &=& 100+100+100+ \cdots +100+50 \\ &=& 100 \times 49+50 \\ &=& 4950 \end{eqnarray}
(2) では掛け算の結合法則と交換法則を使います。また$0.02=2 \times \frac{1}{100}$であることを活用します。
\begin{eqnarray} 0.02 \times 500 &=& \left( 2 \times \frac{1}{100} \right) \times (5 \times 100) \\ &=& (2 \times 5) \times \left( \frac{1}{100} \times 100 \right) \\ &=& 10 \end{eqnarray}
(3) 分配法則を使います。
\begin{eqnarray} 99 \times 100 &=& 99 \times (100 + 1) \\ &=& 99 \times 100 +99 \times 1 \\ &=& 9900 +99 \\ &=& 9999 \end{eqnarray}
以上、「多項式の基本法則を使って、計算を楽にしよう!」の巻でした。
高校最初の単元でこんな当たり前のことを学ぶのは、実は計算を簡単にするため、だけではありません。
交換法則や結合法則は「成立する演算」と「成立しない演算」があります。「演算」というのは足し算や掛け算のことです。例えば、「足し算」と「掛け算」では交換法則や結合法則が成立しますが、「引き算」や「割り算」では成立しません。
他にも高校2年で習うベクトルという数において、足し算は交換法則が成立しますが、掛け算 (外積)では、交換法則が成立しません。このような、高校で新たに習う数や演算では、交換法則や結合法則などの「当たり前」の事実が「当たり前」では無くなってくるのです。
多項式の基本法則が本当に重要になるのは、こうした「これまで習った法則が通用しない計算」を学ぶときです。そのときまた、多項式の基本法則を思い出してもらいたいと思います。
指数法則
多項式の計算ではしばしば次数の高い式の計算をするときがあります。例えば以下のような計算です。
$$ 2ax^4 \times 3a^2 x^5 = 6 a^3 x^9 $$
こうした計算を簡単にするのが指数法則です。
指数法則その1. $x^a \times x^b = x^{a+b}$
指数法則その2. $x^a \div x^b = x^{a-b} $
指数法則その3. $\left( x^a \right)^b = x^{ab}$
文字だけ見るとややこしく、覚えるのは少々手間なので、忘れたときには、以下のように小さな数で実際に計算してみることをお勧めします。
\begin{eqnarray} x^2 \times x^3 &=& (x \times x) \times (x \times x \times x) \\ &=& x^5 \\ &=& x^{2+3} \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} \left( x^{2} \right)^3 &=& x^2 \times x^2 \times x^2 \\ &=& x \times x \times x \times x \times x \times x \\ &=& x^6 \\ &=& x^{2 \times 3} \end{eqnarray}
よく使う展開公式
複数の多項式の積を1つの多項式で表す、すなわち多項式の括弧を外す作業を「展開」と呼びます。この後習う因数分解の逆の操作ですね。
多項式の展開には前述した分配法則を使います。分配法則を覚えていれば、展開できない多項式など存在しません。
ただ、多項式の中にはよく出てくる形があるので、「よく出てくる形」は「公式」として覚えてしまった方が便利です。
以下では、それら覚えておくと便利な公式をご紹介します。
\begin{align}1.\;\; & (a + b)^2 = a^2 + 2ab +b^2 \\ 2.\;\; & (x+a)(x+b)=x^2 +(a+b)x +ab \\ 3.\;\; & (a+b)(a-b) = a^2 – b^2 \\ 4.\;\; & (a + b)^3 = a^3 +3a^2 b +3ab^2 + b^3 \\ 5.\;\; & (a+b)(a^2 -ab +b^2) = a^3 + b^3 \end{align}
忘れたとき、自信がないときには分配法則を使って計算しなおせば確認ができます。問題を解きつつ、忘れたら何度も確認して定着させるのが、一番早く覚えられると思います。手を動かしましょう。
1. と 2. と 3. は比較的簡単に確認ができて、覚えるのも簡単です。
\begin{eqnarray} (a + b)^2 &=& a \times (a+b) +b \times (a+b) \\ &=& a^2 + ab +ab +b^2 \\ &=& a^2 + 2ab +b^2 \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} (x+a)(x+b) &=& x \times (x+b) + a \times (x+b) \\ &=& x^2 + bx + ax + ab \\ &=& x^2 +(a+b)x +ab \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} (a+b)(a-b) &=& a \times (a-b) +b \times (a-b) \\ &=& a^2 – ab +ab -b^2 \\ &=& a^2 – b^2 \end{eqnarray}
4. と 5. は少々面倒で覚えるのが大変です。
\begin{eqnarray} (a+b)^3 &=& (a+b)(a+b)^2 \\ &=& (a+b) \times (a^2 +2ab +b^2) \\ &=& a^3 + 2a^2 b + ab^2 +a^2 b + 2ab^2 +b^3 \\ &=& a^3 +3a^2 b + 3ab^2 +b^3 \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} (a+b)(a^2 -ab +b^2) &=& a^3 -a^2 b +ab^2 +a^2 b -ab^2 +b^3 \\ &=& a^3 + b^3 \end{eqnarray}
では最後に、練習として一緒に問題を解いてみたいと思います。
例題 2以下の値を求めよ。
(1) $(2a-3b)^3$
(2) $(a+b)(a-b)(a^2 -ab +b^2)$
(3) $(x-y)(x+y)(x^2 +y^2)(x^4 +y^4)$
(1) 3乗の展開公式を間違えないように使ってください。
\begin{eqnarray} (2a-3b)^3 &=& (2a)^3 +3 \times (2a)^2 \times (-3b) +3 \times (2a) \times (-3b)^2 + (-3b)^3 \\ &=& 8a^3 + 3 \times 4a^2 \times (-3b) + 3 \times 2a \times 9b^2 -27b^3 \\ &=& 8a^3 – 36a^2 b +54 ab^2 -27b^3 \end{eqnarray}
(2) $(a+b)(a-b)$ は実はフェイントです。計算順序が重要になります。
\begin{eqnarray} (a+b)(a-b)(a^2 -ab +b^2) &=& (a+b)(a^2 -ab +b^2)(a-b) \\ &=& (a^3 + b^3)(a-b) \\ &=& a^4 -a^3 b +ab^3 -b^4 \end{eqnarray}
(3) 最後はスッキリした気持ちになって頂きたく、この問題をご用意しました。
\begin{eqnarray} (x-y)(x+y)(x^2 +y^2) &=& (x^2 -y^2)(x^2 +y^2) \\ &=& (x^4 -y^4) \end{eqnarray}
今回のまとめ
この単元は問題練習ばっかりで、正直面白くありません。
しかしながら、この単元をどれだけしっかり勉強したかは、高校数学のすべての問題の計算スピードに直結します。それはすなわち、勉強の効率が上がるということです。
そして、この単元の本当の面白さが分かるのはもっと後、受験直前でしょう。そのときにまた、思い出してみてください。
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