助動詞は古典文法における最大のヤマ場と言えるほど重要な項目です。詳しくは下記で解説していきますが、1つ1つの助動詞につき、接続・活用・意味の3方向から整理をし頭に入れていく必要があります。
今回は、推量の助動詞の1つである「べし」について説明をしていきます。なんか赤塚不二夫のキャラクターを彷彿させますが…。
助動詞には、推量の意味を持つものが多いこと、「べし」自体も推量以外に多様な意味を持つためよく問われます。1段階ずつしっかりと理解をしていきましょう。
この記事で学べること・「べし」の2つの活用の使い分け
・「べし」の意味の見分け方
・動詞・形容詞など基本品詞の活用の復習
「べし」の接続・活用・意味
さて、それでは、早速、助動詞べしの接続、活用、意味について述べていきます。分からなければ一つづつしっかりと復習をしていきましょう。地道な努力が大きな結果を産みます。
「べし」の接続
まずは、接続について見ていきます。そもそも接続とは、助動詞の直前に何形の品詞が来るか、助動詞が直前の何形の品詞とつながるかを意味します。何形とは、具体的には未然・連用・終止・連体・已然・命令を指します。
そして、「べし」は終止形接続の助動詞です。つまり、「べし」の直前には動詞や形容詞・形容動詞の終止形が来ることになります。平家物語から例題を見ていきましょう。
容顔まことにびれいなりければ、いづくに刀を立つべしとも覚えず。(平家物語)
この場合、「立つ」+べし、となっています。立つは動詞です。そこで、まず、動詞の「立つ」についてしっかりと見ていきましょう。
少し動詞の復習をしますと、動詞には「四段・上一段・下一段・上二段・下二段・カ変・サ変・ナ変・ラ変活用」の計9つの活用があります。多いですよね。
そして、四段・上二段・下二段の見分け方については文末に「~ず」を付けて判断していくというものでしたね。そこで「ず」の前の音が以下の形で判断します。つまり
- 「ア段」になれば四段活用
- 「イ段」になれば上二段活用
- 「エ段」になれば下二段活用
でしたね。本問では「立つ」とありますので、「~ず」をつけると「立たず」となるので「ア段」になっていますね。そこで、「立つ」は四段活用というのがわかります。
四段活用は「あ・い・う・う・え・え」と活用するので、「立た・立ち・立つ・立つ・立て・立て」という形になり終止形か連体形となります。
そして、先述の通り「べし」は終止形接続の助動詞ですので、立つ+べしは、タ行四段活用終止形「立つ」+推量の助動詞「べし」がくるとわかります。。
助動詞べしの活用形
次はべしの活用です。活用とは「べし」自体がどのように変化していくかを意味します。それでは、べしの活用について見ていきましょう。
未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 | |
本活用 | べく | べく | べし | べき | べけれ | ○ |
補助活用 | べから | べかり | ○ | べかる | べけれ | ○ |
「べし」の活用は本活用が「べく・べく・べし・べき・べけれ・○」補助活用が「べから・べかり・○・べかる・べけれ・○」という形でしたね。
2つあるように見えますが、活用の型としては形容詞のク活用です。形容詞はク活用とシク活用がありましたが、形容詞のク活用について少し復習をしておきましょう。
ちなみに形容詞とは物事の状態や様態などをさす表現でして、現代語で言うと「~い」で終わるものを言い、古文では「~し」で終わるものを言います。
今回問題となっているク活用は、本活用が「く・く・し・き・けれ・○」、補助活用が「から・かり・○・かる・○・かれ」となります。
前者を本活用、後者を補助活用と言い、補助活用は直後に助動詞が来る場合に用いると覚えておきましょう。具体的には以下のようになります。方丈記を例にとって見てみましょう。
もろもろの辺地などを加へていはば、際限もあるべからず。(方丈記)
この場合、最後に打消の助動詞「ず」があります。ちなみに「ず」は未然形接続ですので、「ず」の直前は未然形となります。
そこで、本件では「べし」は未然形にしなければならない、かつ、直後に助動詞があるのでいわゆる補助活用にする必要があります。ゆえに、「べから」+「ず」という形になるのです。
「べし」の意味
最後に意味についてです。「べし」は助動詞全体でみても多くの意味を持ちます。伝統的に用いられている語呂合わせ含めて頭に入れましょう。
「べし」の意味は以下の形にあります。なんども繰り返して覚えましょう。
「べし」の意味①推量(きっと~だろう・~そうだ)
②意志(~よう・~つもりだ)
③可能(~ことができる)
④当然(~はずだ)
⑤命令(~せよ)
⑥適当(~のがよい)
という以上の6つの意味があります。
そして、語呂合わせとして「スイカとめて」というものがあります。これ自体に意味はありませんが、これは、「す(推量)+い(意志)+か(可能)+と(当然)+め(命令)+て(適当)」という形で、頭文字を組み合わせたものです。
また、当然というと「当然~すべき」と訳すようなイメージが湧くかと思いますが、古文では「~はずだ」と訳しますので覚えておきましょう。
べしの意味の識別方法について
「べし」の見分け方を覚えたいところなのですが、「べし」の識別においては覚えるべきこと・覚えておけばよいことが少なく、文脈判断による場合が多いのが現状です。
ただ、まずは基本の見分け方について整理しておきます。
まず、直後に打消の助動詞「ず」が来る場合、「可能」になることが多いです。例えば、方丈記に、「羽なければ、空をも飛ぶべからず。」という文があります。訳は、羽がないので空を飛ぶこともできない、となります。但し、これも100%ではないので、文脈判断も適宜必要です。
次に、主語が1人称(わたし)である場合には、「意志」になることが多いです。私の意思が文に現れるという形ですね。
さらに、ここが厄介なところですが、「当然」は上で述べたように「~はずだ」と訳します。すなわち「推量」(~だろう)に比べて、可能性が高いという形です。
ゆえに、実際に訳してみて、より強い推測の場合は「当然」、弱い場合には「推量」と考えることになります。上記の話をまとめると以下の形で識別することができます。
以上の話をまとめると以下の形になります。しっかりと理解しましょう!!
可能・・・打ち消しの助動詞「ず」が後ろに来る意思・・・主語が一人称
当然、推量・・・より強い推測は当然、弱い場合は推量
実際、できるようになるには演習が必要になってきます。そこで別記事で演習問題を作成していきます。こちらで是非とも練習をしてください。
まとめ
いかがだったでしょうか。識別のところでかなり文脈判断が求められるところが難しいです。練習をして慣れていきましょう。
また、今回「べし」を説明するにあたっては、動詞や形容詞といった基本品詞についても復習をしました。助動詞は動詞を助けると書きますが、動詞や形容詞・形容動詞などに接続するため、基本品詞の活用はしっかりと頭に入れておく必要があります。
各々の助動詞で関連する部分も異なりますので、助動詞を勉強しつつも周辺を固め、着実に古典文法の力をつけていきましょう。
より詳しく古典文法を勉強したければ「望月光の古文教室 古典文法編 改訂版 (教室シリーズ) 」がおすすめです。
また、より実践的な入試問題をしたければ、「古文助動詞(じ、ず、たり、べし、む)などの現代語訳問題【大学受験】」をしてみてください。
コメント