今回は、生物基礎の転写と翻訳について詳しく解説をしていきます。この分野を勉強されておられる方で、
- 転写と翻訳の違いをわかりやすく教えてほしい。
- 転写と翻訳についてよくわからない。
- セントラルドグマや複製もついでに教えてほしい。
と悩まれておられる方がおられると思います。こんなお悩みを解決できるようにわかりやすく解説します。
また、実際にセンター試験で出題された転写と翻訳について今回の知識を使えば解答できるので実際に解いてみましょう。
- 本記事の内容転写と翻訳の違いをわかりやすく解説します
- セントラルドグマとは何かを解説します。
- 複製について
- 転写と翻訳に関する入試問題を解いてみる
ぜひ、参考にして下さいね。
転写と翻訳とは?その違いをわかりやすく解説
タンパク質合成の過程には、「転写」と「翻訳」がRNAの働きによって行われます。
まず、初めに「転写」が行われます。
「転写」とは、DNAのうちタンパク質の遺伝情報をもつ塩基配列がRNAにに写し取られる過程のことをいいます。
このときに、DNAの塩基配列をもとに相補的な塩基配列の鎖ができるのですが、RNAの場合、チミン(T)の代わりにウラシル(U)が入っています。
転写によってできるRNAは、mRNA(伝令RNA)と呼ばれます。
その後に、「翻訳」が起こります。
翻訳とは、mRNAをもとに3つの塩基配列に対応するアミノ酸が1つずつ、配列し結合していく過程のことをいいます。
このときに、アミノ酸を運んでくるのがtRNA(運搬RNA)です。
このように「転写」と「翻訳」によって、タンパク質が合成されます。
セントラルドグマとは?
さきほど、説明したようにDNAの塩基配列はmRNAによって転写され、mRNAの塩基配列はtRNAによってアミノ酸配列に翻訳されます。
このように遺伝情報は「DNA→RNA→タンパク質」という一方方向に流れていることをセントラルドグマといいます。
「セントラル」は中心、「ドグマ」とは宗教の「教義(宗教の考えをまとめたもの)」と言う意味で、「教典→聖職者→信者」のように伝えられているような例えとして用いられています。
この流れは一方通行で「タンパク質→RNA→DNA」というような逆の流れには決してなりません。
転写と翻訳についてわかりやすく解説
それでは、転写と翻訳についてさらに詳しく解説していきます。
「転写」と「翻訳」によるタンパク質合成は、わかりやすく簡単に解説すると以下の図のとおりです。
「転写」と「翻訳」について、さらに深堀りして説明していきます。
転写:DNAからRNAへ
転写とは、さきほど説明したとおり、DNAの塩基配列の中からタンパク質の遺伝情報を持つ塩基配列がRNAに写し取られること言います。
まず、DNAを構成する2本のヌクレオチド鎖の塩基同士の結合が切り離され、一本ずつのヌクレオチド鎖になります。
2本のうち片方のヌクレオチド鎖(鋳型鎖)の塩基配列に従って、RNAのヌクレオチド鎖が並んでいきます。
このとき、RNAのヌクレオチドは塩基がDNAのヌクレオチドと相補的に結合して並んでいきます。
だたし、RNAの場合、DNAのアデニン(A)に対して、ウラシル(U)という塩基が結合します。
DNAから転写されてできたRNAをmRNAと呼ぶのでしっかり覚えておきましょう!
転写は核内で行われます。
RNAとは
先ほどから転写の過程にRNAが登場してきましたが、ここでRNAの特徴について解説します。
RNAは、DNAと同じ核酸の一種で、リボ核酸(ribonucleic acid)の略になります。
遺伝子ではありませんが、タンパク質を合成する上でかなり重要な役割を果たします。
RNAはDNAと同じように、ヌクレオチドを構成単位としていますが、いくつか相違点があります。
まず、DNAは2本のヌクレオチド鎖からなりますが、RNAは1本のヌクレオチド鎖で構成されています。
また、DNAとRNAは糖の種類が異なります。
DNAはデオキシリボースであるのに対し、RNAはリボースが結合しています。
また、RNAはDNAと持っている塩基の種類も異なります。
DNAの塩基の種類は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類ですが、RNAの場合、チミン(T)がウラシル(U)になります。
RNAは、「mRNA」「rRNA」「tRNA」があり、以下のような特徴があります。
- mRNA:DNAから転写される
- rRNA:タンパク質と結合してリボソームを構成する
- tRNA:翻訳に関連
RNAは、種類と働き、DNAの違いについてしっかり覚えておきましょう!
転写後修飾
転写が行われたそのままmRNAでは、まだ、タンパク質を合成することができず、完全なmRNAになるためには様々な転写後修飾を受けなければいけません。
有名なものの一つとしてスプライシングというものがあります。これは真核生物のみで行われます。
真核生物についてはこちら
転写された直後のmRNAを前駆RNAと呼び、前駆RNAにはタンパク質のアミノ酸配列の情報をもつ領域と持たない領域が含まれています。
アミノ酸配列の情報をもった領域をエキソン、もたない領域をイントロンと呼ばれています。
スプライシングという過程の中で、前駆mRNAのイントロンの部分を切り出だされ、エキソンのみの完全なRNAになります。
注意点として、スプライジングですべてのエキソンが翻訳され、タンパク質になるというわけではありません。
切り出されるエキソンもあり、様々なエキソンの組み合わせによって多数のmRNAができあがります。
このように、スプライジングによって複雑にmRNAが調節されることによって、体のいろいろな部位において様々な種類のタンパク質が合成されます。
翻訳:RNAからタンパク質へ
続いて、RNAからタンパク質への合成過程である「翻訳」について詳しく解説していきます。
翻訳において、重要なポイントは以下の2つ。
- ポリペプチド鎖の合成
- 遺伝暗号「コドン」について
それぞれについて深堀りしていきます。
ポリペプチド鎖の合成
翻訳では、mRNAからタンパク質を合成するときに「ポリペプチド鎖の合成」が行われます。
rRNA(リボソームRNA)とタンパク質から構成されたリボソームが、mRNAと結合してアミノ酸をポリペプチド鎖にし、タンパク質を合成します。
ポリペプチド鎖を合成するときに、tRNA(transferRNA)がアミノ酸を運んでき、mRNA中の3つの塩基配列に対応するアミノ酸が結合していきます。
このように、mRNAとtRNAによって、ポリペプチド鎖が合成され、その後にただしく折りたたまれて(フォールディング)、タンパク質が完成します。
翻訳の過程は、複数のmRNAとtRNAによって行われるので、一度に同じ種類のタンパク質がたくさん作られます。
遺伝暗号「コドン」について
タンパク質の合成において、アミノ酸の種類を決めているmRNAの3つの塩基配列は、「コドン」(遺伝暗号)と呼ばれています。
そして、コドンに対して、相補的な結合をするtRNAのことを「アンチコドン」といいます。
A、U、G、C、4つの塩基からできる「コドン」の組み合わせは、4×4×4=64通り。
しかし、数個のコドンが同じアミノ酸を指定するので、64通りあるコドンは20種類のアミノ酸のどれかになるようにを表します。
ただし、「UAA」「UAG」「UGA」には対応するアミノ酸がないので、タンパク質合成を停止するコドンになります。
また、タンパク質合成の開始するコドンも決まっていて、それが「AUG」でメチオニンのアミノ酸になります。
どのような「コドン」がどのアミノ酸を表しているのかを覚える必要はありませんが、開始コドンと終止コドンは覚えておきましょう。
複製について
最後は、少しだけ「転写」や「翻訳」に似ている「DNAの複製」について詳しく解説します。
DNAの合成の流れは以下のとおり。
- 二重らせん構造をほどく
- 二本のDNA(親鎖)は鋳型になり、そこに相補的な塩基が結合・伸長していく
- 鋳型鎖と新たにできたDNA(娘鎖)がそのまま二重らせん構造をとり、複製完了
このように、親型のDNAを半分にして、それを元に複製を行っていることから、半保存的複製と呼ばれています。
ここでさらに深堀して、正確に複製が行われるしくみについて詳しく解説します。
- DNAの新規合成
- RNAプライマーをDNA配列へ
- DNAの配列の校正
順番に解説していきますね。
DNAの新規合成
まずは、DNAの新規合成について、くわしく説明していきます。
DNAの複製するとき、DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素がDNA鎖を伸ばしていくのですが、DNA鎖を伸長する向きが「5’→3’」と決まっています。
親鎖のほどかれた2本鎖は、一方は「5’→3’」と連続的にヌクレオチド鎖のコピー(娘鎖)を合成できるのですが、もう一方は「3’→5’」となってしまうので、連続して合成することができません。
これを「連続的複製」と「不連続的複製」といい、それぞれの伸長の仕方について説明していきます。
それぞれについて、深堀りして説明していきます。
連続的複製
まずは、連続的複製についてです。
3’→5’方向に合成される5’→3’のヌクレオチド鎖は、DNAポリメラーゼによる伸長方向が複製方向と同じの方向なので、連続的に複製が進むことができます。
連続的複製でできた新生鎖をリーディング鎖といいます。
不連続的複製
続いて、不連続的複製についてです。
不連続的複製では5’→3’方向に伸長する3’→5’のヌクレオチド鎖が合成されますが、5’→3’方向に伸長する酵素はありません。
なので、3’→5’方向に合成するDNAポリメラーゼが、本来の複製の方向に逆らって5’→3’方向に鎖を伸長させることになります。
伸長の仕方は、短いDNA鎖が不連続的に合成され、その後に短いDNA鎖が連結し、ヌクレオチドが完成します。
この不連続に複製されたヌクレオチド鎖をラギング鎖といいます。
RNAプライマーをDNA配列へ
実は、DNAを新しく合成するとき、DNAポリメラーゼでは一番初めの伸長開始の数塩基分は合成することができません。
そこで、RNAポリメラーゼの一つであるプライマーゼがRNAをつくることによって、DNAの最初の数塩基の代わりになります。
このRNAの数塩基部分をプライマーというのですが、そのプライマーからDNAポリメラーゼによってDNAが新しく合成されていきます。
複製を完了させるためには、このRNAプライマーをDNAに正しく、置き換えなければいけません。
大腸菌では、RNAプライマーはDNAポリメラーゼの機能によって分解され、DNA鎖に置き換えられます。
DNAポリメラーゼⅠは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性があり、RNAプライマーを加水分解します。
バラバラのDNAは、DNAリガーゼによって連結され、DNA鎖が完成します。
DNA配列の校正
DNAの複製において、DNAの塩基の配置を間違えることがあります。
間違えてしまうと、DNAが変わってしまうので細胞が正常に機能しなくなる場合もあるので、DNA配列の「校正」機能が備わっています。
具体的には、アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)の塩基対ではない場合、DNAポリメラーゼが検出し、正しい塩基配列に構成する機能が備わっています。
入試問題に出題された転写と翻訳
では、「転写・翻訳」で入試に実際に出題された問題を紹介していきます。今回紹介する問題は、センター試験生物基礎の2020第一問の問4です。
入試問題
下の文章を読んでみて、ア~エの空欄に入る言葉を考えてみてください。
文章が難しくて少し読みにくいかもしれないけど、今回解説した範囲で答えられるので、落ち着いて読んでみましょう。
解答及び解説
それでは、解答・解説していきます。
アは、「DNA→RNA→タンパク質」と一方方向に遺伝情報が流れていくことを「セントラルドグマ」と言いましたね。
イは、「転写」、ウは「翻訳」になります。
後の文章で、合成されたタンパク質について述べていることから、空欄には「転写→翻訳」の過程が入ることがわかります。
最後のエは、「複製」です。前の空欄は「DNAを合成する」ということから、後ろの空欄では「細菌の増殖しない」ことから、DNAが「複製」できないということがわかります。
まとめ
というわけで以上になります。今回は、「転写と翻訳」について詳しく解説しました。
転写と翻訳は、DNAからタンパク質を合成することにおいて、かなり重要な過程でした。
入試でもかなり頻出のところなので、しっかり押さえておきましょう。
また、「DNAの複製の仕方」についても解説しました。
リーディング鎖やラギング鎖の部分は理解するのが難しいので、一度読んだだけではなかなか覚えにくい部分です。
なので、何度も読んで頭に入れてくださいね。
もし忘れたら、またこの講義に戻ってきて、ぜひ今後の勉強に役立てて下さい。
今回も最後までありがとうございました。
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