皆さんこんにちは。今回は繊維工業について解説していきたいと思います。
日本は今でこそ重化学工業主体の工業となっていますが、高度経済成長期のころまでは繊維工業が日本を代表する産業だったのはご存知でしょうか。
そんな繊維工業ですが、古くからある紡績業や製糸業に加えて、現在では化学工業と組み合わせた化学繊維に関する工業もあるなど、様々な種類・形態を持っています。
また、イギリスを発端とする産業革命を産み出したのも、繊維工業です。つまり、繊維工業は近代の重工業や機械化のパイオニアといってもいいのです。
この記事では多種多様の形態を持つ繊維工業について解説をしていきたいと思います。
この記事を読んで理解できること・繊維工業の種類について理解できる
・繊維工業の形態について理解できる
繊維工業について
日本の近代工場のパイオニアである富岡製糸場(群馬県・世界文化遺産)の内部
繊維工業とは、繊維原料または繊維を加工して繊維製品を生産する工業のことを指します。
生糸(かいこから作られる糸)を製造する繊維工業を製糸業、綿花、化学繊維、羊毛、麻などの糸を製造することを紡績業と呼び、区別します。
また糸を用いて布を作る織物業、糸をより合わせてより強固な糸を作る撚糸業(ねんし)なども繊維工業になります。
そして、工業は大きく分けて「重工業」と「軽工業」に分類されるのですが、繊維工業は軽工業にあたります。
そして、繊維工業とは、天然繊維や化学繊維を加工して、糸や織物を作る工業のことを言います。立地分類では、「労働力指向型工業」(安価で豊富な労働力を利用する工業)に分類されます。
というのも、衣服や織物というのはミシンでの手作業が多かったりします。また、デザインの変更があった場合には大勢の人が素早く対応する必要があります。
よって、繊維工業はたくさんの人手を要する「労働力指向型工業」に分類されるのです。
綿工業について
(綿工業で使われる代表的な原料、綿花)
繊維工業のうち、植物である綿花を原材料とする工業を綿工業といいます。
綿花から糸を作り(紡績業)、綿織物を製作する(織物業)もので、1950年ごろまでは日本を代表する工業として発展してきました。
日常生活の中で、綿は多くの場面で使われていますよね。みなさんが着ているTシャツも綿からできているものが多いのではないでしょうか。そしてその綿は綿花が原料となっています。
綿の原料・綿花ですが、大衆の衣料原料として世界的に最も重要な地位を占めたのは18世紀の末なのです。
それまでは、羊毛や麻製品が衣料原料として使われていました。
綿工業の始まりはインドです。その後、イギリスのランカシャー地方で産業革命の発端となりました。以降、アメリカ・ドイツ・日本に広まりましたが、近年は中国・インド・バングラデシュなどの原料産出国や低賃金を利用した国々の生産量が増加しています。
実際の綿花及び綿織物の生産について国別にみてみましょう。
綿花の生産(2013) | % |
中国(シンチャンウイグル自治区で顕著) | 25.7 |
インド(デカン高原で顕著) | 24.7 |
アメリカ | 11.6 |
パキスタン(パンジャブ地方) | 8.8 |
ブラジル | 4.6 |
綿織物の生産(2014) | 千トン | % |
中国 | 5,603 | 32.5 |
インド | 5,058 | 29.3 |
パキスタン | 3,265 | 18.9 |
インドネシア | 780 | 4.5 |
ブラジル | 640 | 3.7 |
表を見てみると、綿工業が盛んな国は綿花の生産も盛んであることが多いことがわかりますね。
また、綿工業はイギリスにおいて産業革命を起こすきっかけになった産業です。
イギリス国内では18世紀ごろから綿工業が発展しました。
その際に紡績を行うための機械(紡績機)や織物を作るための機械(力織機)などが開発されて工程の機械化が進み、また機械を動かすための動力が水力から蒸気力(蒸気機関)へと変化していったことが、産業革命を起こすきっかけとなったといわれています。
世界史の「【世界史B】受験に役立つヨーロッパ史(イギリスの自由主義改革)」も併せて読んでみてください。
羊毛工業について
(羊毛工業の原料である羊毛を持つ羊)
家畜である羊の毛をもとにして、糸を作り、毛織物などを生産する工業のことを羊毛工業といいます。
ヨーロッパにおいては17世紀に綿織物が登場しその後普及するまでの間、衣類の基本となるものとして使われていたことから、ヨーロッパ各地で毛織物産業が盛んでした。特にヨーロッパのフランドル地方に発達しました。その後、イギリスのヨークシャー地方が中心となります。
現在は原毛を輸入してアメリカ、イギリス、イタリアなどで発達しています。
現在でも冬物の衣料品(セーターやマフラーなど)を中心に羊毛工業による衣料品生産が行われています。
化学繊維工業について
現在、繊維は綿花や羊毛のように自然あるいは動物由来のものにとどまらず、科学技術を駆使して日々新しいものが作られています。例えば、スポーツウェアや夏に着用するサラサラとした下着などです。
化学繊維はナイロンが1930年に発明された後、どんどん発明されていきました。今日では天然繊維をはるかに超えるまでになっています。
繊維の中で天然繊維は綿、麻、絹、毛、石綿だけで、残りはすべて化学繊維ということになります。
とくに、石油をもとにして作られる化学繊維はレーヨン、ナイロンなどをはじめとして広く普及しています。このような化学繊維を生産する工業を化学繊維工業といいます。
最近では、化学繊維を生産するだけにとどまらず、化学繊維工業で得た技術をもとにして新たな技術を創出する取り組みも行われています。
日本の繊維工業
これまでは世界の繊維工業を見てきました。今度は日本の繊維工業についてです。繊維工業出荷額の表を見てみましょう。
繊維工業出荷額(2012) | 億円 |
愛知 | 4,748 |
大阪 | 3,224 |
岡山 | 2,821 |
福井 | 2,442 |
石川 | 2,039 |
- 愛知県の名古屋は綿工業、尾西・一宮は羊毛が盛んです。
- 岡山県はジーンズ学生服で有名です。
- 福井県・石川県は伝統的な絹製品で有名です。
頭の片隅に入れておく程度で覚えておきましょう!
繊維工業の問題について
まずは繊維工業について一問一答形式で知識を確認していきましょう。その後に、実際の入試問題を解答していきます。
①繊維工業の立地分類は何でしょうか。
②綿花は中国のどの地区で生産が盛んでしょうか。
③綿工業が発展したのはイギリスの何地方でしょうか。
④羊毛工業が発展したのはイギリスの何地方でしょうか。
⑤愛知県の尾西・一宮で盛んな繊維工業は何でしょうか。
繊維工業の出題例(慶應義塾大学より)
それでは、繊維工業に関する入試問題を実際に解いてみましょう。
これは、2018年度に慶応義塾大学商学部にて出題された入試問題を改題したものです。
なお、回答欄が(11)(12)といったように二つ並んでいますが、(11)に10の位の数字を、(12)に1の位の数字をマークする方式がとられているため、回答する語句は4つとなります。
問題の解答及び解説
この問題では、産業革命を起こすきっかけとなった繊維工業において、どのような形で産業革命が起こったか、その結果どのような変遷が見られたかということに関する知識を問われています。
まず、繊維工業では生糸(かいこから作られる糸)を製造する繊維工業を製糸業、綿花、化学繊維、羊毛、麻などの糸を製造することを紡績業と呼び、区別するということを思い出してください。
この問題で問われている綿糸を生産することは、紡績となります。また、紡績を行うための機械(紡績機)や織物を作るための機械(力織機)などが開発されて工程の機械化が進みましたね。
このことから空欄(11)、(12)は紡績機、(13)、(14)は力職機であることがわかります。よって、(11)、(12)の解答は37の紡績、(13)、(14)の解答は44の力織となります
さらに、機械を動かすための動力が水力から蒸気力(蒸気機関)へと変化していきました。
このことから空欄(15)、(16)は水力、(17)、(18)は蒸気力であることがわかります。よって(15)、(16)の解答は29の水力、(17)、(18)の解答は25の蒸気力となります
まとめ
ここまで、繊維工業について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか
ここでもう一度おさらいしておきましょう
繊維工業の形態
- 生糸(かいこから作られる糸)を製造する繊維工業…製糸業
- 綿花、化学繊維、羊毛、麻などの糸を製造すること…紡績業
- 糸を用いて布を作る…織物業
- 糸をより合わせてより強固な糸を作る…撚糸業
繊維工業の種類
- 綿花を材料とするもの…綿工業(綿工業の発展が、産業革命を起こすきっかけとなった)
- 羊毛を原料とするもの…羊毛工業
- 石油等の化学物質を原料とするもの…化学繊維工業
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