平和主義についてわかりやすく解説(判例・入試問題も解説)【政治第16回】

今回のテーマは、平和主義です。

 

平和主義とは何か・憲法第9条に関する判例を中心にわかりやすく解説しました。

 

また記事の後半には入試問題を用意しています。学習した内容のおさらいもできますよ。本記事を通して、平和主義・憲法第9条の重要判例を一緒にマスターしていきましょう。

この記事からわかること

・平和主義とは何か

・憲法第9条の条文の内容

・憲法第9条に関する判例

スポンサーリンク
スポンサーリンク

平和主義とは

平和主義の象徴といわれている原爆ドーム(原爆ドーム:wikiより)

平和主義とは、戦争・暴力を否定し、世界平和を最高の理念とする考え方です。

 

第二次世界大戦での痛ましい経験をふまえ、二度と戦争が起きないよう平和主義の規定が取り入れられました。

 

平和主義は日本国憲法第9条で定められています。

 

第9条:① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

1項では戦争の放棄、2項で戦力の不保持交戦権の否認が明記されています。

第9条(平和主義)に関連する判例

陸上自衛隊(自衛隊:wikiより)

あれ?日本には自衛隊があるよね。自衛隊は憲法第9条2項の「戦力」ではないの?
たなかくん
たなかくん

 

記事を読んでいる人のなかにはこのように思った方もいるでしょう。

 

実は自衛隊が戦力にあたるかどうか争われた事件が3つあります。

① 恵庭事件

② 長沼ナイキ事件

③ 百里基地訴訟

です。

恵庭事件

事件の概要は以下のとおりです。

 

1962年、北海道恵庭町(現:恵庭市)の酪農家が自衛隊の実弾射撃により被害を受けた。そこで射撃訓練をする際は、事前に連絡をするとの協定を結ぶ。しかし自衛隊は何の連絡もなく射撃演習を実施。腹を立てた酪農家は演習場の通信線を切断し、自衛隊法第121条違反で起訴された。

 

事件の争点は、自衛隊法が憲法に違反するかどうかでした。

 

第一審の札幌地裁は、被告人の行為が自衛隊法第121条に違反しないとして無罪判決を下しました。

 

しかし自衛隊法が合憲か違憲かについての核心部分には触れられませんでした。

長沼ナイキ事件

1968年、防衛庁は北海道長沼町にある森林の伐採を決定しました。ミサイル基地を建設するためです。

 

しかし伐採に反対した地元住民が、国を相手に訴えを起こしました。

 

この事件は長沼ナイキ事件のほか、長沼事件長沼ナイキ基地訴訟とも呼ばれます。

 

第一審の札幌地裁は、自衛隊が憲法第9条2項で定められている「戦力」に該当するとして、違憲判決を出しました自衛隊を違憲と判断した唯一の判決です。

 

しかし続く第二審の札幌高等裁判所では、統治行為論により憲法判断を回避し、住民の訴えを退けました。

 

また最高裁も第二審判決を支持し、住民の敗訴が決まりました。

統治行為論とは

そもそも統治行為論って何?
たなかくん
たなかくん

 

統治行為論とは、高度な政治性を有する国家行為を司法審査の対象から除外すべきとする考え方です。

 

なぜ統治行為論が登場したかというと、裁判所が政治にまで関与すると三権分立を侵害するおそれがあるからです。

 

例えば、日本がほかの国との間で条約を締結したとしましょう。もし条約が裁判所で違憲と判断され、判決が確定したらどうなるでしょうか?

 

政治的な混乱が生じるリスクが出てきますよね。

 

だから裁判所は、「政治色の強い国家行為については裁判所で判断できません。国会や内閣にお任せします」という立場をとっているわけです。

 

S先生
S先生
逆に長沼ナイキ事件で札幌地裁が下した第一審判決は、統治行為論を使わず明確に自衛隊が違憲であることを述べたものでした。ゆえに当時世間からは大きな注目を集めました。

百里基地訴訟

事件の概要は以下のとおりです。

 

茨城県小川町(現:小美玉市)では航空自衛隊百里基地が建設される予定だった。しかし建設予定地の所有権をめぐって国と反対住民が争い、国は訴訟を起こした。

 

百里基地訴訟については、自衛隊そのものが憲法に違反するかどうかが最大の争点でした。

 

結果は第一審〜最高裁まで一貫して国の勝訴に終わりました。

 

また自衛隊について裁判所は、統治行為論により憲法判断を回避しました。

砂川事件

自衛隊だけではなく、在日米軍についても憲法に違反するかどうか争われた事例があります。1957年の砂川事件です。

 

砂川事件とは、東京都砂川町(現在の立川市)にある米軍基地の拡張工事に反対する学生が基地内に侵入し、起訴された事件です。

 

第一審の東京地裁は、在日米軍は第9条の禁止する「戦力」にあたるとして違憲判決を下します。

 

しかし最高裁は、第9条の「戦力」は日本が指揮・管理できる戦力のことで、在日米軍は戦力に該当しないと判断しました。

 

また1951年に締結された旧安保条約(日米安全保障条約)が違憲かどうかも争点となりましたが、最高裁は統治行為論により憲法判断を回避しました。

 

ちなみに最高裁はこれまで自衛隊・日米安全保障条約について一度も違憲判決を出したことはありません。勘違いしやすいポイントなので、しっかりおさえておきましょう。

 

今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、チェックしてみてください。

入試問題にチャレンジ

問 下線部ⓕ(第9条)に関連して、自衛隊について争われた裁判の例として誤っているものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 恵庭事件

② 砂川事件

③ 長沼ナイキ基地訴訟

④ 百里基地訴訟

2008年 センター試験 本試験 政治・経済 第3問 問6より)

問1:⑤ A:知る権利とは、国や地方公共団体の保有する情報の開示を要求できる権利なので、「国に対して情報の公開を求める」との記述があるウが正解です。B:プライバシーの権利は、私生活をみだりに公開されない権利であると同時に、自己に関する情報をコントロールできる権利でもあります。選択肢アは後者の説明として適切なので、Bにはアが入ります。
問2:③ ①:弁護人依頼権は憲法第37条3項で規定されています。人身の自由について詳しく学びたい方はこちらの記事「人身の自由についてわかりやすく解説(入試問題も用意)【政治第12回】」もあわせてご覧ください。②:刑事補償請求権は憲法第40条で規定されているので誤りです。請求権について学習したい方はこちらの記事「参政権・請求権についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第14回】」をチェックしてみてください。④:プライバシーの権利が裁判所で認められたケースは、1964年の「宴のあと」事件判決などがあります。
正解:② 砂川事件では、在日米軍・旧安保条約が憲法第9条に違反するかどうかについて争われました。恵庭事件・長沼ナイキ基地訴訟(長沼事件)・百里基地訴訟では、自衛隊が第9条に反するかが争点となりました。
問3:④ ①:知的財産権のうち、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つ)を管轄する機関として特許庁、著作権を管轄する機関としては文化庁が設置されています。②:最高裁判所は環境権を憲法上の権利として認めていません。しかし新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそく・水俣病の四大公害訴訟や大阪空港公害訴訟では、市民への損害賠償請求を認めています。③:プライバシーの権利ではなく、知る権利です。

まとめ

今回は、平和主義・憲法第9条に関する判例について解説しました。

 

最高裁ではこれまで自衛隊・日米安全保障条約について一度も違憲判決を出していません。統治行為論により憲法判断を回避してきたからです。

 

統治行為論がどんな理論だったかについては本記事を読んでしっかり理解しておきましょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

前回の記事「新しい人権(知る権利・プライバシーの権利など)についてわかりやすく解説【政治第15回】」をご覧ください。

新しい人権(知る権利・プライバシーの権利など)についてわかりやすく解説【政治第15回】
みなさん、こんにちは。今回のテーマは新しい人権です。 知る権利・アクセス権・プライバシーの権利のように、憲法には明文化されていない人権について判例付きでわかりやすく解説しました。 また記事の後半では入試問題も用意しています。学習した内容をお...

 

次回の記事「戦後日本の安全保障体制についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第17回】」をご覧ください。

戦後日本の安全保障体制についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第17回】
みなさん、こんにちは。今回のテーマは、戦後日本の安全保障体制です。 自衛隊の創設過程やこれまでの活動歴、日米安全保障体制の歴史についてわかりやすく解説しました。 また記事の後半には入試問題を用意しています。学習した内容の復習ができるので、最...

 

政治経済を理解するには「蔭山の共通テスト政治・経済」がおすすめです。政治経済の細かいところまで解説してくれるので、受験生はぜひとも一読をするとよいでしょう。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

にほんブログ村 受験ブログ 大学受験(本人・親)へ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました