今回のテーマは人権保障の歴史です。
自由権や社会権がどのように誕生したか・人権宣言やワイマール憲法の概要・人権を保障するために国連が実施した取り組みを中心に解説しました。
また記事後半には、入試問題を用意しています。学習した内容をアウトプットできるので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・自由権・社会権が登場した背景
・人権宣言やワイマール憲法の概要
・国連が実施している人権保障の取り組み
人権思想の起源とは
(マグナ・カルタ:wikiより)
人権思想の起源は、1215年にイギリスで出されたマグナ・カルタまでさかのぼります。
マグナ・カルタは、当時国王だったジョンの失政に貴族が反抗したのをきっかけに発布された文書です。国王による不当な逮捕や国外追放を禁止するなど、現在の人権の基礎となる内容が規定されています。
1689年には同じくイギリスで権利章典が制定されました。権利章典では、国王が課税する際に議会の同意が必要とされたほか、国民の請願権・議会における言論の自由が規定されています。
自由権の誕生
(フランス人権宣言:wikiより)
自由権とは、国の不当な干渉を制限できる権利です。
主な自由権としては、言論の自由や信教の自由といった精神の自由・不当逮捕を禁止する人身の自由・財産権の不可侵といった経済の自由が挙げられます。
自由権が重視された背景には、絶対王政に対するブルジョワジーの反発がありました。ブルジョワジーとは、経済力をつけた商工業者をはじめとする市民階級のことです。
17~18世紀は、とりわけ国家権力に対する不満が高い時代でした。ゆえに公権力の濫用から個人の自由を守ろうとする動きが進み、結果として一連の市民革命・自由権の保障へとつながりました。
現に1789年のフランス人権宣言には、「あらゆる政治的団結の目的は、人の消滅することのない自然権を保全することである。これらの権利は、自由・所有権・安全および圧制への抵抗である」と明記されています。
フランス人権宣言のほかにも、市民革命期には、バージニア権利章典・アメリカ独立宣言といった主要な人権宣言が出されました。
アメリカのバージニア権利章典は、世界ではじめて自然権が明文化された文書です。
バージニア権利章典が出された1776年には、アメリカ独立宣言も採択されています。
宣言では、「すべての人は平等に造られ、創造主によって一定の譲ることのできない権利を与えられ、そのなかには生命、自由および幸福追求の権利が含まれていることを信ずる」とされ、抵抗権が明記されました。
社会権の登場
(ワイマール憲法:wikiより)
社会権とは、人に値する生活の保障を国に請求できる権利です。
20世紀に入ると、資本主義の発展により貧富の差が拡大し、理想の国家観が夜警国家から福祉国家へと変化しました。こうした時代の変化を受けて登場したのが社会権なのです。
自由権と社会権の違いは、国家と国民の距離感にあります。
自由権は国家が国民生活に介入するのを制限する権利なのに対し、社会権は生活保護や失業保険など、国に国民生活への積極的な介入を求める権利です。
自由権が「国家からの自由」と呼ばれる一方、社会権は「国家による自由」といわれています。
社会権をはじめて保障したのは、1919年に制定されたワイマール憲法です。
ワイマール憲法の第151条には、「経済生活の秩序は、すべての者に人間に値する生活を保障することを目的とする正義の原則に適合しなければならない」と明記されており、人に値する生活の保障を定めています。
また、第153条3項に「所有権は義務を伴う」と定め、個人の財産権を制限しました。
国連の人権保障への取り組み
(国際連合:wikiより)
第二次世界大戦以降、人権を国際的に保障しようとする動きが活発になりました。
まず1948年に国連は世界人権宣言を採択します。自由権だけではなく、社会権など幅広い人権を規定したものの、法的拘束力がないのがデメリットでした。
そこで1966年に国際人権規約を採択し、人権保障・自由権の尊重を各国に義務づけました。
国際人権規約は、社会権規約(A規約)・自由権規約(B規約)・B規約の選択議定書の3つで構成されています。
日本は、1979年にA規約・B規約に批准しました。ただし、祝祭日の給与や公務員のストライキ権の2点は留保しています。
ほかにも国連では、1965年に人種差別撤廃条約、1979年に女性差別撤廃条約、1989年に子どもの権利条約、2006年に障がい者権利条約が採択されているので覚えておきましょう。
今回の範囲は以上です。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問 下線部ⓓ(市民の権利)に関して、各国における宣言や憲法に関する次の記述ア~ウと、それらに対応する名称A~Dの組合せとして最も適当なものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。
ア 経済生活の秩序は、すべての者に人間たるに値する生活を保障する目的をもつ正義の原則に適合しなければならないとした。
イ 人の自然権は、自由、所有権、安全および圧制への抵抗であるとした。
ウ 国王といえども法に従わなければならないとし、「法の支配」の原則を明文化した。
A イギリスの権利章典(1689年)
B アメリカ独立宣言(1776年)
C フランス人権宣言(1789年)
D ワイマール憲法(1919年)
① ア-A イ-B ウ-C
② ア-A イ-C ウ-D
③ ア-B イ-A ウ-C
④ ア-B イ-D ウ-A
⑤ ア-C イ-B ウ-D
⑥ ア-C イ-D ウ-B
⑦ ア-D イ-A ウ-B
⑧ ア-D イ-C ウ-A
まとめ
今回は、人権保障の歴史を解説しました。
自由権と社会権の違いは、国家と国民の距離感にあります。自由権は国家の介入を避けるのに対し、社会権は国家の積極的な介入を期待する権利です。
自由権と社会権が成立した背景とセットで覚えておいてください。
また、人権を保障するために、国連が採択した各種条約についてもしっかりマスターしておきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「民主政治の基本原理(権力分立など)についてわかりやすく解説【政治第3回】」をご覧ください。
次回の記事「各国の政治制度についてわかりやすく解説(入試問題演習も)【政治第5回】」をご覧ください。
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