今回のテーマは、ヘレニズムです。この記事では以下の内容が学べます。
この記事からわかること
・ヘレニズムが誕生した背景
・ヘレニズム哲学の種類と特徴【エピクロス派とストア派】
倫理をはじめて学ぶ方にも内容を十分に理解してもらえるよう、わかりやすく解説しました。
また記事の後半には、今回のテーマに関連した入試問題を用意しています。この記事を読むだけで基本の理解・復習ができるので、最後まで読んでみてください。
ヘレニズムとは
(アレクサンドロス大王:wikiより)
ヘレニズムとは、ギリシャと東方(オリエント)の文明が融合してできあがった文化です。
オリエントってどこ?
と思った方は、下記の地図をご覧ください。
(古代オリエント:wikiより)
では、ここからヘレニズムが誕生した背景について解説しますね。
紀元前4世紀後半、マケドニア王国はギリシャを征服しました。
さらにマケドニア王国のアレクサンドロス大王は、ペルシャ・インドのある東方へと遠征します。
東方遠征によって、西アジアからエジプトにまたがる一つの巨大帝国が完成しました。
その結果、ポリス(共同社会)が崩壊します。それまで顔の見える隣人たちと共同体を作って生活していたギリシャ人は、よりどころを失ってしまったわけです。
ポリスの崩壊により、人々は個人の魂の内面的な自由と平安に幸福を求めるようになりました。
ヘレニズム思想は、世界市民主義の影響を強く受けて生まれたものだったのです。
ヘレニズム哲学の種類と特徴【エピクロス派とストア派】
(エピクロス:wikiより)
ヘレニズム哲学は以下の2つに分かれます。
- エピクロス派
- ストア派
1つずつ解説しますね。
エピクロス派の思想
エピクロス派の創始者は、名前のとおりエピクロスです。エピクロスは人間=本性上快楽を追求する存在と考えます。
そのうえで心の平静(アタラクシア)を追求することが幸福への道だと説きました。永続的な精神的快楽こそが真の快楽と考えたわけです。
注意したいのは、エピクロスの考える快楽は精神的快楽であって、肉体的な快楽は含まれないという点です。
肉体的な快楽は一時的なものであり、長い目で見れば苦痛をもたらします。
例えば、暴飲暴食した次の日に体調を崩してしまうのは、まさに肉体的快楽を追求したことへのしっぺ返しです。
なので、エピクロスは肉体的快楽に否定的でした。
また彼の有名な言葉に「隠れて生きよ」があります。エピクロスは「心の平静を乱す社会や政治から距離を置き、静かに暮らしましょう」と説いたわけです。
彼は実際、エピクロスの園と呼ばれる学園をつくり、仲間たちと共に生涯の後半を静かに暮らしました。
まず前提としてエピクロスはデモクリトスと同様、原子論の立場をとっていたことをおさえておきましょう。
「原子論って何?」と思った方は、こちらの記事「哲学とは?誕生までの歴史と主な自然哲学者についてわかりやすく解説【倫理第4回】」を読んでみてください。
エピクロスは、原子論の考えに基づいて、死はアトムの離散にすぎないと考えました。人間は死んでしまえばちりと同じというわけです。
そもそも死を経験したことがある人間はいませんよね。なので、エピクロスは死を恐れる必要はないと説いたのです。
ストア派の思想
ストア派は、「禁欲的」を意味する英語「ストイック」の語源にあたるグループです。
創始者のゼノンは、多くのギリシャ人と同様、宇宙はロゴスが支配していると考えます。
人間にとってのロゴスは理性です。なので、ゼノンは自らの心の中にある理性(ロゴス)によって自己の欲望にうちかつことが幸福への道だと説きました。
こうした考え方を禁欲主義といいます。
禁欲主義の果てにゼノンが追求したのは、不動心(アパテイア)です。不動心とは、怒りや死の恐怖などの情念に惑わされない魂の状態を指します。
ストア派は「自然に従って生きよ」を信条とし、情念に動かされることなく、自然に従って理性的に生きるべきだと考えていたわけです。
入試問題にチャレンジ
問 下線部ⓐに関して、ストア派のアパテイアの説明として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 自然に従って生きることで、魂が完全に理性的で調和したものとなり、欲望や快楽などの情念によって動かされない状態。
② 情念や欲望が理性の命令に聞き従うことで、魂の三部分間の葛藤や分裂が克服され、心が全体として理性によって制御された状態。
③ 過剰な情念に満たされることと、情念に心が少しも動じないことの中庸として見いだされる、有徳な人間にふさわしい適度な情念をもった心の状態。
④ 苦しみや悲しみなどが取り除かれて、心のうちに快楽が得られることによって、魂が浄化された平静な状態。
「自然に従って生きる」「欲望や快楽などの情念によって動かされない」などの記述が最大のヒントです。
②:「魂の三部分間の葛藤や分裂が克服され」の記述が誤りです。プラトンが提唱した「魂の三分説」を念頭に置いた記述と見られます。
③:中庸の大切さについて説いたのは、ストア派ではなくアリストテレスです。
④:エピクロス派のアタラクシア(心の平静)に関する記述です。
まとめ
今回は、ヘレニズム哲学が誕生した背景と、エピクロス派・ストア派それぞれの思想の特徴を解説しました。学習内容のおさらいです。
・ヘレニズム哲学は、アレクサンドロス大王による東方遠征と世界市民主義の影響を強く受けて育まれた思想である。
・エピクロス派は快楽主義を唱え、心の平静を追求することが幸福への道だと考えた。
・ストア派は禁欲主義をかかげ、不動心を追求することが幸福につながると説いた。
ヘレニズム哲学をマスターするための第一歩として、上記の3点をしっかりおさえておきましょう。記事を読んで内容を理解したら問題を解いてアウトプットすることもお忘れなく。
今回は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「アリストテレスの思想(中庸・正義と友愛など)をわかりやすく簡単に解説【倫理第7回】」をご覧ください。
次回の記事「ユダヤ教の歴史と特徴をわかりやすく簡単に解説【倫理第9回】」をご覧ください。
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