今回は、社会保障について取り上げます。
社会保障の歩みから各国の社会保障制度の違い、日本の社会保障制度の特徴まで幅広い内容を解説しました。
最後には入試問題も用意しているので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・社会保障の歩み~社会保障はいつ誕生したのか
・各国の社会保障制度の特徴~北欧型・大陸型・アメリカ型の違い
・日本の社会保障制度の特徴と課題
社会保障の歴史
(エリザベス1世:wikiより)
社会保障とは、貧困や病気などに直面したとき、国が国民の最低限度の生活を保障することです。
社会保障の始まりは、1601年に制定されたイギリスのエリザベス救貧法でした。エリザベス救貧法は世界初の公的扶助ですが、貧困者への慈善的救済に限られているという問題点もありました。
では近代的な社会保障の始まりはいつなのでしょうか?
それは、1880年代のドイツです。当時首相だったビスマルクによって、疾病保険法(1883)・労働者災害保険法(1884)といった世界初の社会保険制度が創設されました。社会主義者鎮圧法(1878)とともに作られたため、「アメとムチの政策」と呼ばれています。
1911年には、イギリスで国民保険法が成立し、世界初の失業保険が整備されました。
1935年にはアメリカで、社会保障法が制定されます。社会保障法は、フランクリン=ローズベスト大統領が実施したニューディール政策の一環として作られた法律です。社会保障という言葉が使われた初めての法律といわれています。
第二次世界大戦が終わると、イギリスでは、ベバリッジ報告の「ゆりかごから墓場まで」というスローガンに基づく社会保障制度が実施されました。
1944年には国際労働機関(ILO)がフィラデルフィア宣言を採択し、各国に社会保障制度を整備するよう勧告しています。
各国の社会保障制度
(年金:wikiより)
各国の社会保障制度は大きく北欧型・大陸型・アメリカ型の3つに分かれます。
北欧型は租税を主な財源としており、均一的な年金給付が中心です。イギリスやスウェーデンなどが北欧型を採用しています。給付格差は生じにくい一方、租税が高負担になりやすいのが難点です。
大陸型は所得に比例した年金給付で、保険料を主な財源としています。所得が高ければ相応の給付が得られる反面、低所得層との給付格差が大きくなるのがネックです。フランス・ドイツなどが大陸型を採用しています。
アメリカ型は、公的な年金保険が中心です。自助努力を重視しており、とくに医療保険ではほとんどが民間の保険に加入しています。
日本の社会保障制度
(年金手帳:wikiより)
特徴
日本の社会保障制度は、社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生の四本柱で成り立っています。
社会保険は、病気・老齢・失業・労働災害に直面した場合に、拠出した保険料に基づいて一定の保険金が支給される制度です。医療保険・年金保険・雇用保険・労災保険・介護保険の5つがあります。
それぞれの説明は以下のとおりです。
公的扶助は、貧困に苦しむ人々を救済するため、生活困窮者に経済支援を行い、最低限度の生活を保障する制度です。生活保護法に基づいて実施されており、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8種類の扶助が受けられます。全額公費負担です。
社会福祉は、児童・高齢者・障がい者・母子世帯など、社会的保護や援助を必要とする人々に対して手当の支給・施設サービスの提供を行うものです。児童福祉法・生活保護法などの6本の法律、いわゆる福祉六法が制定されています。全額公費負担です。
公衆衛生は、国民の健康を守る医療と、生活環境の整備・保全のことを指します。前者は疾病の予防・治療・健康の増進、後者は上下水道や清掃施設の整備などです。
課題
日本の社会保障制度が抱える課題は主に2つあります。
1つ目は、現役世代の過重負担です。現在、日本の公的年金制度には賦課方式が採用されています。
賦課方式は、その年に現役世代が納めた保険料から年金を給付する方式です。インフレや金利変動の影響を受けにくい反面、高齢化にともない、現役世代の負担が重くなり、世代間の不公平が広がるというデメリットもあります。
そこで、年金給付水準の引き下げや、支給開始年齢・保険料の引き上げが段階的に行われているわけですね。
2つ目は、高齢者に対する医療・介護の問題です。1997年に制定された介護保険法に基づいて、2000年から介護保険制度がスタートしました。介護保険制度は、40歳以上の全国民から保険料を徴収し、介護が必要と認められた人に介護サービスを提供するものです。
今回の範囲はここまでとなります。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問 Bパート(所得分配の側面)に関連して、生徒Yは、格差や分配について調べる中で、どのような形でもって国民の間で社会保障の財源を負担するのか、まとめることにした。次の文章中の空欄【ア】~【エ】に当てはまる語句の組合せとして正しいものを、下の①~⑧のうちから一つ選べ。
社会保障の財源について、【ア】を中心とする北欧型と、【イ】を中心とする大陸型があり、日本は、北欧型と大陸型の中間に位置しているといわれる。
日本では、高齢化が進み社会保障関係費が増大している。その増加する社会保障関係費を賄うため、政府は、全世代が負担し負担の世代間格差の縮小に有用であるといわれている【ウ】をその財源として組入れを予定し、増税を進めた。また、2000年代に入って40歳以上の人々を加入者とする【エ】制度が実施され、その後、後期高齢者医療制度も導入された。
① ア 社会保険料 イ 租税 ウ 消費税 エ 年金保険
② ア 社会保険料 イ 租税 ウ 消費税 エ 介護保険
③ ア 社会保険料 イ 租税 ウ 所得税 エ 年金保険
④ ア 社会保険料 イ 租税 ウ 所得税 エ 介護保険
⑤ ア 租税 イ 社会保険料 ウ 消費税 エ 年金保険
⑥ ア 租税 イ 社会保険料 ウ 消費税 エ 介護保険
⑦ ア 租税 イ 社会保険料 ウ 所得税 エ 年金保険
⑧ ア 租税 イ 社会保険料 ウ 所得税 エ 介護保険
まとめ
今回は、社会保障制度について解説しました。
この記事を読んで、社会保障の歴史や各国の社会保障制度の違い、日本の社会保障制度の特徴をしっかり理解していただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「労働問題についてわかりやすく解説(入試問題つき)【経済第11回】」ですのでよければ読んでください。
次回の記事「貿易と比較生産費説についてわかりやすく解説(入試問題も用意)【経済第13回】」をご覧ください。
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