今回のテーマは、平和主義です。
平和主義とは何か・憲法第9条に関する判例を中心にわかりやすく解説しました。
また記事の後半には入試問題を用意しています。学習した内容のおさらいもできますよ。本記事を通して、平和主義・憲法第9条の重要判例を一緒にマスターしていきましょう。
この記事からわかること
・平和主義とは何か
・憲法第9条の条文の内容
・憲法第9条に関する判例
平和主義とは
(原爆ドーム:wikiより)
平和主義とは、戦争・暴力を否定し、世界平和を最高の理念とする考え方です。
第二次世界大戦での痛ましい経験をふまえ、二度と戦争が起きないよう平和主義の規定が取り入れられました。
平和主義は日本国憲法第9条で定められています。
1項では戦争の放棄、2項で戦力の不保持・交戦権の否認が明記されています。
第9条(平和主義)に関連する判例
(自衛隊:wikiより)
記事を読んでいる人のなかにはこのように思った方もいるでしょう。
実は自衛隊が戦力にあたるかどうか争われた事件が3つあります。
① 恵庭事件
② 長沼ナイキ事件
③ 百里基地訴訟
です。
恵庭事件
事件の概要は以下のとおりです。
事件の争点は、自衛隊法が憲法に違反するかどうかでした。
第一審の札幌地裁は、被告人の行為が自衛隊法第121条に違反しないとして無罪判決を下しました。
しかし自衛隊法が合憲か違憲かについての核心部分には触れられませんでした。
長沼ナイキ事件
1968年、防衛庁は北海道長沼町にある森林の伐採を決定しました。ミサイル基地を建設するためです。
しかし伐採に反対した地元住民が、国を相手に訴えを起こしました。
この事件は長沼ナイキ事件のほか、長沼事件・長沼ナイキ基地訴訟とも呼ばれます。
第一審の札幌地裁は、自衛隊が憲法第9条2項で定められている「戦力」に該当するとして、違憲判決を出しました。自衛隊を違憲と判断した唯一の判決です。
しかし続く第二審の札幌高等裁判所では、統治行為論により憲法判断を回避し、住民の訴えを退けました。
また最高裁も第二審判決を支持し、住民の敗訴が決まりました。
統治行為論とは
統治行為論とは、高度な政治性を有する国家行為を司法審査の対象から除外すべきとする考え方です。
なぜ統治行為論が登場したかというと、裁判所が政治にまで関与すると三権分立を侵害するおそれがあるからです。
例えば、日本がほかの国との間で条約を締結したとしましょう。もし条約が裁判所で違憲と判断され、判決が確定したらどうなるでしょうか?
政治的な混乱が生じるリスクが出てきますよね。
だから裁判所は、「政治色の強い国家行為については裁判所で判断できません。国会や内閣にお任せします」という立場をとっているわけです。
百里基地訴訟
事件の概要は以下のとおりです。
百里基地訴訟については、自衛隊そのものが憲法に違反するかどうかが最大の争点でした。
結果は第一審〜最高裁まで一貫して国の勝訴に終わりました。
また自衛隊について裁判所は、統治行為論により憲法判断を回避しました。
砂川事件
自衛隊だけではなく、在日米軍についても憲法に違反するかどうか争われた事例があります。1957年の砂川事件です。
砂川事件とは、東京都砂川町(現在の立川市)にある米軍基地の拡張工事に反対する学生が基地内に侵入し、起訴された事件です。
第一審の東京地裁は、在日米軍は第9条の禁止する「戦力」にあたるとして違憲判決を下します。
しかし最高裁は、第9条の「戦力」は日本が指揮・管理できる戦力のことで、在日米軍は戦力に該当しないと判断しました。
また1951年に締結された旧安保条約(日米安全保障条約)が違憲かどうかも争点となりましたが、最高裁は統治行為論により憲法判断を回避しました。
ちなみに最高裁はこれまで自衛隊・日米安全保障条約について一度も違憲判決を出したことはありません。勘違いしやすいポイントなので、しっかりおさえておきましょう。
今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、チェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問 下線部ⓕ(第9条)に関連して、自衛隊について争われた裁判の例として誤っているものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 恵庭事件
② 砂川事件
③ 長沼ナイキ基地訴訟
④ 百里基地訴訟
まとめ
今回は、平和主義・憲法第9条に関する判例について解説しました。
最高裁ではこれまで自衛隊・日米安全保障条約について一度も違憲判決を出していません。統治行為論により憲法判断を回避してきたからです。
統治行為論がどんな理論だったかについては本記事を読んでしっかり理解しておきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「新しい人権(知る権利・プライバシーの権利など)についてわかりやすく解説【政治第15回】」をご覧ください。
次回の記事「戦後日本の安全保障体制についてわかりやすく解説(入試問題付き)【政治第17回】」をご覧ください。
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