みなさん。こんにちは。数学IAのコーナーです。今回は【条件付き確率と反復試行】についてです。一風変わった確率の問題、と思ってください。ただの場合の数や確率の問題と比べるとセンター試験での出題率は下がり、問題の難易度は上がります。
条件付き確率の問題では、しばしば直感と異なる答えが飛び出し、混乱するのですが、基本的な解き方は確率の問題と変わりありません。
今回はまず、普通の確率について簡単に復習した後、条件付き確率の問題、反復試行の問題を解説します。また、条件付き確率の問題や反復試行の問題には、通常の確率の問題にはない、特殊な解法が存在します。そこで使うのが「ベイズの定理」や「確率の乗法定理」です。
この2つの定理を理解することで、問題を解くスピードは格段にアップしますし、これらは最近話題の機械学習やAIといった分野への入り口ともなる定理です。数学と現実の技術の関係を考えるのはとても楽しいので、興味がある方はさらに深く学んでみて欲しいと思います。
事象と確率
まず簡単に確率の復習をしましょう。
確率
全事象$U$の根本事象のどれが起こることも同様に確からしいとき、ある事象$A$が起こる確率$P(A)$は
$$ P(A)=\frac{事象Aの起こる場合の数}{起こりうるすべての場合の数} $$
確率は、「事象Aの場合の数と、起こりうるすべての場合の数を求め、その比を計算」すれば求められます。条件付き確率の問題についてもこの基本は変わりません。
条件付き確率
条件付き確率は、意味が分かれば、そんなに難しいことをやっているわけではないのですが、一見すると私たちの直感と外れた答えが飛び出てくるため、誰もが一度は困惑することでしょう。
私たちは直感にそぐわない現実を目の当たりにすると、往々にしてそこで立ち止まり、思考停止してしまいがちです。
立ち止まらずに前に進むために重要なことは「絶対に確かなもの」に立ち返って考えることです。数学の世界で絶対に確かなことは「定義」であり、確率の定義は「全事象に対し、ある事象が起きる割合」です。
また、起こりうるすべての事柄が同様に確からしい場合には、事象Aが起こる確率は「事象Aの場合の数÷全事象の場合の数」となります。困ったことがあったらここに立ち返りましょう。
では条件付き確率とは何なのか、を説明するため、以下の問題を見ていきます。
例題 1硬貨2枚を同時に投げ、少なくとも1枚は表であるとき、もう1枚も表である確率を求めよ。
この問題を見て、このように考えるのではないでしょうか。
1枚は表で確定だから、もう1枚が表になる確率を求めればいい。だから答えは$\frac{1}{2}$だ。
またこう考えるかもしれません。
もう1枚も表である、ということはつまり、両方表になる確率を求めればいい。だから答えは$\frac{1}{4}$だ。
果たして、$\frac{1}{2}$と$\frac{1}{4}$、どちらなのか。正解は、なんと、$\frac{1}{3}$となります。コインの問題で分母に$3$が来ることが衝撃ですよね。順番に解説していきます。
まず、確率の定義に立ち返ります。コインのように、起こりうるすべての事柄が同様に確からしい場合における、事象Aが起きる確率は「事象Aの場合の数÷全事象の場合の数」です。
今回の問題のように「少なくとも1枚は表であるとき」には、全事象が「少なくとも1枚は表である」という事象になります。2枚のコインをX、Yと名付けると、「少なくとも1枚は表」になる場合の数は、「Xが表、Yは裏」、「Xが裏、Yが表」、「X、Yがともに表」の3通りです。
このうち、「もう1枚も表」となるのは「X、Yがともに表」となる1通りですので、答えは$\frac{1}{3}$となります。
これが条件付き確率の問題です。高校の確率の問題の解き方はほぼすべて同じで、ある事象Aの場合の数と全事象の場合の数をそれぞれ求め、「事象Aの場合の数÷全事象の場合の数」を計算すれば良いです。
条件付き確率の問題では、全事象の場合の数が、とある事象Wの場合の数となりますが、やるべきことは変わりません。「事象Aと事象Wが共に起きる場合の数÷事象Wの場合の数」を計算すれば良いのです。
上のコインの例で言えば「両方表になる場合の数÷少なくとも1枚が表になる場合の数」を計算すれば良いということですね。
条件付き確率
事象Wが起こったときに事象Aが起こる確率$P_{\rm W} (A)$は
$$P_{\rm W} (A)=\frac{事象Aと事象Wが共に起きる場合の数}{事象Wの場合の数}$$
さて、条件付き確率の問題の解き方は、通常の確率の問題とほぼ同じであることを上で述べましたが、条件付き確率の問題に限り、特殊な解法が存在します。それが、ベイズの定理を用いた解法です。
ベイズの定理
上で述べた通り、事象Wが起こったときに事象Aが起こる確率$P_W (A)$は
$$P_W (A) = \frac{事象Aと事象Wが共に起きる場合の数}{事象Wの場合の数}$$
となります。右辺の分母分子を共に「全事象の場合の数」で割ると、以下のようになります。
$$ P_{\rm W} (A) = \frac{\frac{事象Aと事象Wが共に起きる場合の数}{全事象の場合の数}}{\frac{事象Wの場合の数}{全事象の場合の数}} $$
とある事象の場合の数を全事象の場合の数で割ったものが確率です。よって、
$$ P_{\rm W} (A) = \frac{P (A \cap W)}{P (W)} $$
となります。上の数式を文章にすると「事象Aと事象Wが共に起きる確率を、事象Wが起きる確率で割ると、事象Wが起きたときに事象Aが起きる確率となる」です。これをベイズの定理といいます。
ベイズの定理
$$ P_{\rm W} (A) = \frac{P (A \cap W)}{P (W)} $$
ベイズの定理を使って上のコインの問題を解いてみます。
上記コインの問題では事象Wは「2枚コインを投げたとき、少なくとも1枚のコインは表になる」であり、$P (W) = \frac{3}{4}$です。事象Aと事象Wの積事象は「コインが両方とも表になる」で、$P (A \cap W) = \frac{1}{4}$です。よって、求める確率は
$$P_{\rm W} (A) = \frac{1}{4} \div \frac{3}{4} =\frac{1}{3}$$
となり、上記結果と一致します。
以上がベイズの定理です。使えると便利ですが、条件付き確率の問題は確率の定義を覚えていれば解けますので、忘れてしまったときは無理に使う必要はないですし、「ベイズの定理を忘れちゃったから無理だ!もう解けない!」となってしまっては本末転倒です。あくまで計算を簡単にするための定理だということをお忘れなく。
ベイズの定理は条件付き確率の問題に使えるだけでなく、機械学習やAIに応用されます。ここまで使ってきたことを応用すれば、機械学習のさわり程度は十分理解できますし、世の中で使われている数学と、今習っている数学が繋がってくると、勉強のモチベーションも上がってくるのではないでしょうか?少しでも興味が湧いた人は、機械学習についても調べてみてください。
確率の乗法定理と反復試行
ベイズの定理をもう一度みてみます。
$$ P_{\rm W} (A) = \frac{P (A \cap W)}{P (W)} $$
すべて文字で書かれてはいますが、各記号はすべて通常の関数のように扱うことができます。ここで、両辺に「$P (W)$」を掛けて整理すると以下のようになります。
$$ P (A \cap W)=P (W) \times P_{\rm W} (A)$$
これを確率の乗法定理と言います。ベイズの定理を変形して作ることができるので、どちらか片方を覚えていれば十分です。
確率の乗法定理
$$ P (A \cap W)=P (W) \times P_{\rm W} (A)$$
確率の乗法定理を具体例で説明すると、
「コインを2回連続で投げて、両方表の確率は $\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} =\frac{1}{4}$」
「コインを3回連続で投げて、全て表の確率は $\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}=\frac{1}{8}$」
「コインを4回連続で投げて、全て表の確率は $\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}=\frac{1}{16}$」
といった具合です。確率の乗法定理と大袈裟な名前がついておりますが、このような計算はこれまでも意識せずにやっていた人が大半だと思います。そして意識せずにやっていることは、複雑な問題を解くうえで混乱を招く一番の原因です。これからは確率の乗法定理を意識して使うとよいでしょう。
確率の乗法定理を確率の基本性質と合わせて使うと以下のような問題を解くことができます。
例題 2あるソーシャルゲームの有料抽選システムにて、ある希少商品の排出率が抽選1回につき1%であった。100回抽選を行ったとき、少なくとも1回、希少商品が排出される確率はいくらか。
確率のことが良く分かっていない人は、「1%を100回やれば、だいたい100%くらいになるんじゃない?」と考えるかもしれませんが、ここではその確率をちゃんと計算してみたいと思います。
今回の問題では「少なくとも1回」という言葉が文章中にあります。すなわち、求める確率は「1回出る確率」、「2回出る確率」、「3回出る確率」、、、「100回出る確率」の和となるわけですが、その計算を行うことは効率的ではありません。「少なくとも1回」と言われたら、思い出すべきは「確率の基本性質」である「余事象の確率」です。
「少なくとも1回出る」の余事象は「すべてはずれ」なので、「すべてはずれ」の確率を求め、1から引けば、求めたい確率を計算できます。
また、今回の問題が「袋の中から連続で玉を取り出す」といった問題と異なるところは、何度連続で抽選を行っても、当たりの確率が変わらないことです。このように何度も連続で同じ試行を行うことを「反復試行」と呼びます。反復試行の問題は樹形図を使って解こうとしても、場合分けが多すぎて樹形図を描くことができません。そこで確率の乗法定理の出番となります。
「2回連続はずれ」の確率は、$\frac{99}{100} \times \frac{99}{100} = \left(\frac{99}{100}\right)^{2}$
「3回連続はずれ」の確率は、$\frac{99}{100} \times \frac{99}{100} \times \frac{99}{100} = \left(\frac{99}{100}\right)^{3}$
よって「100回連続はずれ」の確率は、$\left(\frac{99}{100}\right)^{100}$ となります。
求めたい「少なくとも1回当たり」の確率は「100回連続外れ」の余事象の確率ですので、
$$ 1- \left(\frac{99}{100}\right)^{100} $$
となります。これ以上の計算は電卓必須ですので、電卓が手元にない状態で上記問題を出題された場合には上の答えで正解です。
電卓が手元にあれば、上の確率を計算でき、およそ$63$%となりました。
ちなみに、200回ガチャを回すと、$87$%、300回ガチャを回すと、$95$%になります。あとはお財布と相談ですね。
以上で、今回の「条件付き確率と反復試行」のお話は終わりです。この分野は、直感に反した結果と、これまで習った公式と異なる計算手法が多いですし、$P_W (A)$などという記号で書かれると、理解が難しく混乱します。混乱したときにはいつでも、何度でも、自分が分かりやすいと感じた解説へ立ち返ってみてください。
今回のまとめ
今回は以下のことを復習しておきましょう。
・確率は「ある事象の起きる場合の数÷全事象の場合の数」(ただし、起きうるすべての事象が同様に確からしい場合のみ)
・事象Wが起こったときに事象Aが起こる確率$P_W (A)$ (条件付き確率)は
$$P_W (A) = \frac{事象Aと事象Wが共に起きる場合の数}{事象Wの場合の数}$$
・ベイズの定理は条件付き確率の式を変形すると得られる
$$ P_{\rm W} (A) = \frac{P (A \cap W)}{P (W)} $$
・確率の乗法定理はベイズの定理を変形すると得られる
$$ P (A \cap W)=P (W) \times P_{\rm W} (A)$$
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