今回は、リカードの比較生産費説について取り上げます。
表を用いて、国際分業の利益や国際貿易のメカニズムを詳しく解説しました。
最後には入試問題も用意しているので、ぜひ最後までお読みください。
この記事からわかること
・リカードの比較生産費説とはどのような考え方なのか
・自由貿易と保護貿易の違いについて
比較生産費説とは
(リカード:wikiより)
比較生産費説とは、各国は生産費が相対的に安い財の生産に特化し、生産費が相対的に高い財は輸入したほうが利益になるという考え方です。イギリスの経済学者・リカードが提唱しました。
(表:オリジナル)
上記の表で、ワイン・毛織物それぞれの生産に必要な労働力を二国間で比較すると、二つの財いずれもB国のほうがA国よりも少ない労働力で生産できることがわかりますよね。
このように、ある国がほかの国と比べて効率よく生産できることを絶対優位といいます。つまり、B国はいずれの財についても、絶対優位にあるわけです。
では続いて、それぞれの国内で労働力を比べてみましょう。すると、A国はワイン、B国は毛織物のほうが少ない労働力で生産できることがわかりますね。
このように、一国の中である財がほかの財よりも効率よく生産できる状態を比較優位といいます。つまり、A国はワイン、B国は毛織物のほうに比較優位があるわけです。
この場合、A国はワイン、B国は毛織物の生産に特化し、相対的にコストがかかる比較劣位の財は他国から輸入したほうが両国にとって利益になるというのが、リカードの考え方です。
でも、比較優位の財に特化して本当に利益が出るの?
このように、思った方もいるでしょう。そこで、特化前と特化後の生産量を比較してみることにしました。以下は特化後の表です。
(表:オリジナル)
まず、A国がワインの生産に特化すると、220人の労働者で2.2単位(=220÷100)生産できます。続いて、B国が毛織物の生産に特化すると、170人の労働者で2.125単位(=170÷80)生産できますよね。
つまり、特化後には、同じ労働力で特化前に比べ、ワインは0.2単位(=2.2-2)、毛織物が0.125単位(=2.125-2)の増産が可能になるわけです。リカードはこれを国際分業の利益と呼びました。
そして、各国が比較優位の商品に特化して生産・輸出し、比較劣位の商品を輸入するというのが国際貿易のメカニズムなのです。
自由貿易と保護貿易
(リスト:wikiより)
貿易には、自由貿易と保護貿易の2種類があります。リカードの比較生産費説は、まさに自由貿易論の基礎となっているといってもよいでしょう。
しかし、各国の経済には発展段階に差があり生産条件も変化するため、国際分業によって各国が必ずしも利益を得られるとは限りません。
こうした問題点に切り込んだのが、ドイツの経済学者・リストです。リストは、当時発展途上国だったドイツが先進国に追いつくためには、国内の幼稚産業を育成する保護貿易政策が必要であると主張しました。
具体的な方法としては、輸入品に対して関税を高くする・輸入数量制限などの非関税障壁を設けるなどが挙げられます。
しかし、保護貿易政策は国際分業の利益を損ない、国際経済の発展を阻害するリスクもあるので、理解しておいてください。
今回の範囲はここまでです。続いて入試問題を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
入試問題にチャレンジ
問1 下線部ⓓ(輸出入)に関して、次の表は、リカードの比較生産費説に基づいて、国際分業の利益を説明する例を示している。A国では305人の労働者が存在し、B国では230人の労働者が存在している。国際分業が行われていないとき、毎年、食糧10単位と機械製品11単位を生産している。ただし、両国ともに、労働力のみを用いて食糧と機械製品を生産しており、労働者は全員雇用されているものとする。表から読み取れるものとして最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。
① 機械製品1単位の生産を取りやめたとき、その代わりに増産できる食糧の生産量は、A国がB国よりも大きい。
② 食糧1単位の生産を取りやめたとき、その代わりに増産できる機械製品の生産量は、B国がA国よりも小さい。
③ A国が機械製品の生産に特化し、B国が食糧の生産に特化すると、両国全体で、食糧の生産量と機械製品の生産量は、ともに増加する。
④ A国が食糧の生産に特化し、B国が機械製品の生産に特化すると、両国全体で、機械製品の生産量は増加するが、食糧の生産量は減少する。
(2020年 センター試験 本試験 政治・経済 第4問 問4より)
問2 下線部ⓕ(貿易)に関連して、国際分業に関する基礎理論である比較生産費説について考える。次の表は、A国、 B国で、電化製品と衣料品をそれぞれ1単位生産するのに必要な労働者数を示している。現在、A国とB国は、ともに電化製品と衣料品を1単位ずつ生産している。A国の総労働者数は50人、B国の総労働者数は10人である。これらの生産には労働しか用いられないとする。また、各国の労働者は、それぞれの国のこの二つの財の生産で全員雇用されるとし、両国間で移動はないとする。この表から読み取れる内容として正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。
① いずれの財の生産においても、A国に比べてB国の方が労働者一人当たりの生産量は低い。
② いずれの国においても、衣料品に比べて電化製品の方が労働者一人当たりの生産量は低い。
③ A国が電化製品の生産に特化し、B国が衣料品の生産に特化すれば、特化しない場合に比べて、両国全体で両財の生産量を増やすことができる。
④ A国が衣料品の生産に特化し、B国が電化製品の生産に特化すれば、特化しない場合に比べて、両国全体で両財の生産量を増やすことができる。
機械製品1単位の生産に必要な労働者の人数は、A国で15人、B国で10人です。食糧ではA国が14人、B国は12人ですね。A国の機械製品1単位を食糧の生産に回すと、1.07単位(≒15÷14)増産できますが、B国だと0.83単位(≒10÷12)にとどまります。よって①が正解です。
②:①と同様の考え方で解きます。A国の食糧1単位を機械製品の生産に回すと、0.93単位(≒14÷15)しか生産できませんが、B国では1.2単位(=12÷10)増産できます。よってB国がA国よりも多く生産できるので、誤りです。
③・④:A国は機械製品1単位の生産に15人、食糧なら14人必要です。さてどちらの方がより効率よく生産できるでしょうか?食糧ですよね。同時にB国では機械製品のほうが食糧より効率よく生産できます。(機械製品10人<食糧12人)
つまり、A国は食糧、B国は機械製品のほうに比較優位があるわけです。比較優位のある商品の生産に特化すれば、生産量は増えるので、④は間違いとなります。③のように比較劣位の商品に特化してしまうと、生産量は減少するので、③も誤りです。
A国では、電化製品1単位を生産するのに労働力が40人必要です。これに対して、衣料品1単位の生産なら10人で済みます。生産性が高いのは、どちらでしょうか?衣料品ですよね。
つまりA国では、衣料品に比較優位があるといえます。同様の考え方をすれば、B国では、電化製品に比較優位があるとわかります。(電化製品2人<衣料品8人)
だから、A国は衣料品、B国は電化製品の生産に特化すれば、生産量を増やすことができるわけです。よって正解は④となります。
①:電化製品・衣料品ともに、B国のほうがA国よりも少ない労働力で1単位生産できます。つまり、B国のほうがA国よりも生産性が高いわけです。よって設問の文章は逆のことが書かれているので、間違いとなります。
②:A国では、衣料品に比べて電化製品のほうが生産に必要な労働者数が多いので、衣料品に比べて電化製品の方が生産性は低いといえます。しかし、B国ではどうでしょうか?電化製品のほうが衣料品よりも生産に必要な労働者は少ないですよね。だから、B国では衣料品と比べて電化製品のほうが生産性は高いわけですから、「いずれの国においても」というのは間違いです。
③:特化する財が逆になっているので、誤りです。
まとめ
今回は、リカードの比較生産費説について解説しました。
比較生産費説は大学入試の経済分野のなかでも非常に重要な範囲です。しっかりと内容を理解して、問題を解けるまで何度も繰り返し復習しておきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「インフレ・デフレについてわかりやすく解説(入試問題つき)【経済第14回】」ですのでよければ読んでください。
次回の記事「国際収支について(経常収支・金融収支など)わかりやすく解説【経済第16回】」をご覧ください。
政治経済を理解するには「蔭山の共通テスト政治・経済」がおすすめです。政治経済の細かいところまで解説してくれるので、受験生はぜひとも一読をするとよいでしょう。
コメント