今回は、イエスの教えについて解説します。この記事で学べる内容は以下のとおりです。
この記事からわかること
・イエスが律法主義を批判した背景
・神への愛・隣人愛とは?
・神の国に対するイエスの考え
イエスの教えについてはじめて学ぶ人にもキッチリ理解してもらえるよう、わかりやすく解説しました。
また記事の後半には、今回のテーマに関連した入試問題も用意しています。この記事を読むだけで基本の理解・復習ができるので、最後まで読んでみてください。
イエスの教え
(イエス:wikiより)
イエスの教えでとくに重要なのが以下の3つです。
- 律法の精神
- 神への愛と隣人愛
- 神の国は心の内面に成立
順番に解説します。
律法の精神【律法主義を批判】
律法主義とは、律法を形式的・表面的に守ろうとする態度のことです。
当時のユダヤ教は、儀式を重視するサドカイ派や、ひたすら律法の遵守を説くパリサイ派のような形式的な信仰が主流でした。
とくにパリサイ派は、自分たちの正しさを誇り、律法を守れない心の弱い者を見下していました。
イエスはパリサイ派の姿勢を厳しく批判し、律法の精神こそが重要だと説きます。
ここでイエスにまつわるエピソードを1つ紹介します。あるときイエスが安息日に病人を癒していたところ、パリサイ派から律法に反していると指摘されました。
しかしイエスはパリサイ派に、「安息日は人間のためにあるのであり、安息日のために人間があるのではない」と返しました。
ようは、律法を行為として守るだけではダメで、律法に対して心から忠実でなければならないと考えたわけです。
ただイエスは、律法そのものを否定したわけではありません。むしろイエスは神に与えられた律法をすべて肯定しています。
イエスが残した次の言葉にも彼の考えがよく表れています。
「私が律法や預言者を廃するために来たと思ってはならない。廃するためではなく、成就させるために来たのである。」
神への愛と隣人愛
イエスの説く律法の精神とは、神への愛と隣人愛です。
神への愛に関する説明は以下のとおりです。
神は、罪深い存在である私たち人間に対しても、無限の愛を注いでくれる。
→神の愛(アガペー)=無差別で平等な愛であり、万人に与えられるもの
だからこそ…
人間も心から神を愛さなくてはならない!
隣人愛とは、神の愛と同様の愛を隣人たちにも注ぐことです。ここでの「隣人」とは、隣の人だけではなく、イスラエル人だけに限った話でもありません。自分の敵をも含みます。
ゆえにイエスの教えは、明確に選民思想を否定していることを覚えておきましょう。
神の国
イエスは神の国について以下の言葉を残しています。
「見られる形で来るものではない。また『見よ、ここにある、あそこにある』などともいえない。神の国は、実にあなたがたのただなかにある」
つまり、神の国はかつてのイスラエル王国のように現実の国家として存在するわけではなく、人々の心の内面に成立するものだと考えたのです。
イエスは、アガペーの心をもって隣人愛を実践できている者は神の国を実現していると主張しました。
しかし神の国をリアルの世界に実現させたいと願った人々は失望してしまいます。
結果イエスはユダヤ教の指導者からの反感を買い、十字架にかけられ、亡くなりました。次回はイエスの復活とキリスト教の成立について見ていきます。
入試問題にチャレンジ
問 下線部ⓕに関連して、イエスが安息日に病人を癒そうとしたことの説明として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① イエスは、安息日に関する律法からあえて逸脱することで、律法が人々の間で形式的にしか守られていないことを批判し、神に対して忠実であることの本来の意味を明らかにしようとした。
② イエスは、安息日に関する律法からあえて逸脱することで、律法が神の意志そのものとは関係のないものであることを明らかにし、あらゆる律法が不要な状態を理想とした。
③ イエスは、安息日に関する律法を厳格に守り通すことによって、律法に則った正しい信仰のあり方を、自らの行いという実例を通して周囲の人々に示そうとした。
④ イエスは、安息日に関する律法を厳格に守り通すことによって、人々が重視していた律法と、人にしてもらいたいと思うことを人にもすべきだとする黄金律とが一致することを示そうとした。
②:イエスの教えは、律法が神の意志であることを前提としています。イエスは、神に与えられた律法をすべて肯定しているから。よって「律法が神の意志そのものとは関係のないものであることを明らかにし」が誤りです。
③・④:イエスは少なくとも「形式的には」律法から逸脱しているので、誤りです。
「自然に従って生きる」「欲望や快楽などの情念によって動かされない」などの記述が最大のヒントです。
②:「魂の三部分間の葛藤や分裂が克服され」の記述が誤りです。プラトンが提唱した「魂の三分説」を念頭に置いた記述と見られます。
③:中庸の大切さについて説いたのは、ストア派ではなくアリストテレスです。
④:エピクロス派のアタラクシア(心の平静)に関する記述です。
まとめ
今回は、イエスの教えについて解説しました。学習内容のおさらいです。
・イエスは律法の精神こそが重要だと説き、律法主義を批判した。
・神の愛に応えるためには、神への愛と隣人愛の実践が必要である。
・神の国は、現実の国家としてではなく、人々の心の内面に実現する。
イエスの教えを理解するための第一歩として、上記の3点をしっかりおさえておきましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事「ユダヤ教とは?誕生までの歴史や思想の特徴を超簡単に解説【倫理第9回】」をご覧ください。
次回の記事「キリスト教の成立・発展の歴史を超わかりやすく解説【倫理第11回】」をご覧ください。
共通テスト対策本は「蔭山の共通テスト倫理」がおすすめです。図解・イラスト付きで読みやすいので、受験生はもちろん、倫理をはじめて学ぶ人もご一読ください。
コメント